第二部 第32話 視線
静寂。
◇
『……弱くない』
◇
『次からは』
◇
『本当に』
◇
『死ぬかもしれない』
◇
その言葉だけが、 境界へ沈んだ。
◇
士郎が笑う。
◇
獰猛に。
◇
「ならいい」
静かな声。
◇
「弱ぇのばっかで飽きてた」
◇
笑う者が、 本気で嫌そうな顔をした。
◇
『いやその感想おかしいから』
◇
『普通ビビるんだよ!?』
◇
翔は何も言わない。
◇
静かな目。
◇
ただ、 歩いていた。
◇
気配。
◇
沈黙。
◇
視線。
◇
ズレ。
◇
境界の向こう。
◇
無数。
◇
本当に、 無数。
◇
翔の目が、 僅かに細まる。
◇
笑う者が気付いた。
◇
『……何?』
◇
『また誰かいる?』
◇
翔は少し考える。
◇
静かな声。
◇
「見てる」
◇
少し間。
◇
「多分」
◇
「十じゃ利かねぇ」
静寂。
◇
笑う者が止まった。
◇
『……は?』
◇
『いや待て』
◇
『それ今の段階で分かんの?』
◇
翔は肩を竦める。
◇
「うるせぇ」
静かな声。
◇
「気配が多い」
◇
士郎が、 楽しそうに笑う。
◇
「いいじゃねぇか」
◇
「まとめて来いよ」
◇
その瞬間。
◇
境界が、 僅かに軋んだ。
静寂。
◇
反応した。
◇
士郎に。
◇
観測者達が、 ざわめく。
◇
『危険度上昇』
◇
『災害指定更新』
◇
『接触回避』
◇
『監視継続』
◇
笑う者が、 乾いた笑いを漏らした。
◇
『君さぁ』
◇
『煽るのやめない?』
◇
『向こう普通に来るよ?』
◇
士郎が笑う。
◇
「来させろ」
静かな声。
◇
「壊す」
◇
翔が、 少しだけ口元を歪めた。
◇
「騒がしいな」
静かな声。
◇
そして。
◇
初めて。
◇
立ち止まる。
◇
笑う者も、 空気を読むように足を止めた。
◇
『……何?』
◇
翔は答えない。
◇
静かな目。
◇
ただ、 前を見ていた。
◇
境界の先。
◇
何もない場所。
◇
だが。
◇
“いる”。
◇
確かに。
静寂。
◇
翔が、 小さく呟く。
◇
「近ぇな」
静かな声。
◇
その瞬間。
◇
“何もない場所”が。
◇
ゆっくり。
◇
裂けた。




