第二部 第26話 降参
静寂。
◇
『待って待って待って』
◇
『謝る』
◇
『ほんと謝る』
◇
『だから二発目だけはやめよう?』
◇
笑う者の声が、 少し裏返っていた。
◇
観測者達が、 完全に沈黙する。
◇
理解不能。
◇
あり得ない。
◇
界吏を超える存在。
◇
観測外。
◇
理解不能。
◇
それが。
◇
命乞いしている。
◇
西園寺士郎に。
◇
士郎は止まらない。
◇
一歩。
◇
また一歩。
◇
黒い重力が、 空間を沈める。
◇
暗黒が軋む。
◇
観測領域が、 悲鳴を上げていた。
◇
笑う者の輪郭が、 明確に揺れる。
◇
『いやいやいや』
◇
『それ本気じゃん』
◇
『目がヤバいって』
静かな声。
◇
士郎が、 少しだけ首を傾げる。
◇
「今さらか?」
静かな声。
◇
笑う者が、 一歩下がる。
◇
初めて。
◇
本当に。
◇
明確に。
◇
怯えていた。
◇
『……なんでそんな』
◇
『初対面で殺意高いの?』
◇
士郎は笑った。
◇
獰猛に。
◇
「うるせぇから」
静かな声。
◇
翔が、 小さく吹き出す。
◇
「妥当だな」
静かな声。
◇
笑う者が、 初めて本気で翔を見る。
◇
『止めろよ!!』
◇
『相棒だろ!?』
◇
翔は肩を竦める。
◇
「無理だろ」
静かな声。
◇
「お前、 うるせぇし」
◇
観測者達が、 ざわめく。
◇
『撤退推奨』
◇
『災害指定危険度上昇』
◇
『空間維持不能』
◇
『観測中止』
◇
士郎が、 ゆっくり拳を握った。
◇
重力が沈む。
◇
空間が軋む。
◇
笑う者が、 一瞬で青ざめた。
◇
『待って』
◇
『ほんと待って』
◇
『一回話そう?』
◇
『君ら絶対、 今後困るから』
静寂。
◇
士郎が、 少し止まる。
◇
笑う者の目に、 初めて希望が宿った。
◇
『あ』
◇
『止まった』
◇
『よし、 話の通じるタイプ——』
轟音。
◇
重力。
◇
暗黒そのものが、 沈んだ。
◇
笑う者が、 悲鳴を上げる。
◇
『ぎゃあああああ!?』
◇
何層もの空間を、 転がり落ちる。
◇
士郎が、 鼻で笑った。
◇
「一発だけだ」
静かな声。
◇
翔が、 少しだけ笑う。
◇
「優しいな」
静寂。
◇
そして。
◇
ボロボロになった笑う者が。
◇
本気で。
◇
二人を見て思った。
◇
『……なんだこいつら』
◇
『マジで怪物じゃん』




