第二部 第15話 逃走
暗黒。
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静寂。
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禁忌管理者は、 消えていた。
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逃げた。
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ただ。
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無意味に逃げたわけじゃない。
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“当たれば終わる”
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それを理解し。
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存在座標ごと、 退避した。
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観測者達が揺れている。
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理解不能。
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恐怖。
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観測者側は、 初めて。
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“哀沢翔”を、 敵として恐れていた。
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翔は、 気怠そうに煙を吐く。
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「つまんねぇな」
静かな声。
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「逃げるなら、 最初から出てくんなよ」
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士郎は、 心底楽しそうに笑った。
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「お前相手に、 真正面から来る奴いねぇだろ」
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翔は肩を竦める。
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「……お前くらいだろ」
静かな声。
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士郎が吹き出す。
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「違ぇねぇ」
静寂。
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その時。
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暗黒全域へ、 異音が響いた。
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軋み。
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いや。
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悲鳴。
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空間そのものが、 悲鳴を上げている。
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観測者達が、 一斉に震えた。
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『領域損傷拡大』
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『維持不能』
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『深層領域崩壊開始』
静寂。
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士郎が、 面倒そうに空を見る。
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黒い裂け目。
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崩壊。
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観測領域そのものが、 壊れ始めていた。
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翔が、 少し笑う。
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「お前だろ」
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士郎は鼻で笑った。
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「脆ぇ方が悪ぃ」
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次の瞬間。
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暗黒が裂けた。
轟音。
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巨大な手。
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違う。
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“世界”だった。
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崩壊する領域そのものが、 二人を押し潰そうとしていた。
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観測者達が叫ぶ。
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『緊急排除』
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『領域自壊処理開始』
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『異物除去最優先』
静寂。
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士郎が笑う。
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獰猛に。
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「いいな」
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「壊れるなら、 もっと壊せ」
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黒い重力。
轟音。
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真正面。
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崩壊そのものへ、 踏み込む。
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空間圧壊。
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世界断裂。
静寂。
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その時。
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翔が、 ふと暗黒の奥を見る。
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黒い瞳。
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ほんの少しだけ。
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細まる。
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煙草の火が、 静かに揺れた。
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「……いるな」
静かな声。
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士郎が笑う。
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「逃げた奴か?」
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翔は首を横に振る。
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「違ぇ」
静寂。
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そして。
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小さく笑った。
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久々に。
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少しだけ、 面白そうに。
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「もっと上だ」
静かな声。
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その瞬間。
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暗黒のさらに奥。
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今までとは比較にならない、 “視線”が。
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ゆっくり。
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二人へ向いた。




