第二部 第6話 深層
暗黒。
◇
静寂。
◇
観測者達は、 動けなくなっていた。
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理解できない。
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西園寺士郎。
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世界法則を踏み潰す怪物。
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そして。
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哀沢翔。
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認識すらできない死。
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その二人を前に。
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外界側ですら、 初めて“警戒”を覚えていた。
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その時。
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暗黒の奥で。
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“深層観測者”が、 ゆっくり姿を現す。
静寂。
◇
今までとは違う。
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巨大ですらない。
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むしろ小さい。
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人型。
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白い外套。
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それなのに。
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存在感だけが異常だった。
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そいつが立っているだけで。
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暗黒そのものが、 沈んでいる。
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士郎が笑う。
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「今度は人型か」
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深層観測者は、 感情のない目で二人を見る。
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『異常個体確認』
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『排除難度修正』
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『危険度——』
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その瞬間。
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翔が、 ゆっくり煙草を咥えた。
静寂。
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カチッ。
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火が点く。
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その瞬間。
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空気が変わった。
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黒い霧。
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気配が沈む。
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観測者達が揺れる。
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『危険』
◇
『危険』
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『認識阻害開始』
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深層観測者だけは、 静かに翔を見ていた。
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『……なるほど』
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初めて。
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感情みたいなものが混ざる。
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『貴様か』
静寂。
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翔は煙を吐いた。
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「なんだ」
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「俺のこと知ってんのか?」
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深層観測者は答えない。
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次の瞬間。
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翔の背後空間が、 無音で崩壊した。
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因果切断。
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存在抹消。
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観測者側の“暗殺”。
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だが――
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翔は、 既にそこにいなかった。
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黒い霧。
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気配消失。
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深層観測者の視界から、 翔だけが消えている。
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『観測不能』
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『追跡失敗』
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その瞬間。
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士郎が吹き出した。
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「ハハッ」
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「お前、 嫌われてんなぁ」
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翔の声だけが響く。
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「殺し屋だからな」
静かな声。
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その時。
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翔が、 深層観測者の真横へ現れる。
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煙草の火だけが、 暗黒で赤く光っていた。
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「逃げんなよ」
静かな声。
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深層観測者が反応する。
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遅い。
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翔の掌が、 軽く触れた。
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本当に。
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撫でるみたいに。
静寂。
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何も起きない。
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――そう見えた。
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次の瞬間。
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深層観測者が崩壊した。
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身体も。
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概念も。
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存在情報すら。
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霧のように消えていく。
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観測者達が揺れる。
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『深層観測者消失』
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『接触一回』
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『防御突破確認不能』
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『理解不能』
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翔は、 静かに煙を吐く。
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「だから脆ぇって」
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士郎は、 心底楽しそうに笑った。
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「見えなかったぞ」
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翔は肩を竦める。
◇
「見せてねぇからな」
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その瞬間。
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暗黒のさらに奥で。
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今までとは比較にならない“何か”が。
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ゆっくり、 目を開いた。




