第二部 第1話 外側
暗黒。
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音もない。
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光もない。
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世界という概念すら、 存在しない空間。
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その中を。
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二つの影だけが歩いていた。
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西園寺士郎。
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哀沢翔。
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世界を捨てた怪物達。
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二人の足元では、 空間そのものが軋んでいる。
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世界が、 この存在を拒絶していた。
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それでも。
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士郎は笑っていた。
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獰猛に。
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退屈を忘れた怪物みたいに。
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翔が煙草を咥える。
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「で?」
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「どこまで行く?」
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士郎は、 暗黒の先を見る。
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何もない。
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なのに。
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確かに感じる。
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“何か”がいる。
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もっと強い存在。
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もっと壊し甲斐のある世界。
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士郎は、 小さく笑った。
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「全部だ」
静かな声。
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翔は吹き出す。
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「ほんと、 ブレねぇなお前」
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その時。
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違和感。
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風。
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いや。
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この空間に、 風など存在しない。
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なのに。
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“何か”が動いた。
静寂。
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翔の目が細まる。
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士郎も止まる。
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暗黒の奥。
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そこに。
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無数の“目”があった。
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巨大。
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理解不能。
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世界そのものみたいな眼球。
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それらが。
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二人を見ている。
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観測している。
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その瞬間。
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頭の中へ、 声が響いた。
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『異常確認』
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『世界外生命体確認』
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『危険度修正』
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『観測対象——』
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『西園寺士郎』
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『哀沢翔』
静寂。
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翔が、 煙草を吐き捨てる。
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「気持ち悪ぃな」
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その瞬間。
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巨大な“目”の一つが、 二人へ向けて開いた。
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空間崩壊。
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存在圧。
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普通の生命なら、 認識した瞬間に発狂する。
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それでも。
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士郎は笑った。
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心の底から。
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「いいじゃねぇか」
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黒い重力。
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暗黒そのものが震える。
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翔は、 気怠そうに前へ出る。
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黒い霧。
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気配が消える。
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存在感が消失する。
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その瞬間。
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“目”が、 翔を見失った。
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違う。
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観測できない。
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『認識阻害』
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『危険』
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『危険』
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『危険』
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翔は静かに笑う。
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「うるせぇな」
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次の瞬間。
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翔の姿が消えた。
静寂。
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そして。
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巨大な“目”が、 縦に裂ける。
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遅れて、 暗黒が崩壊した。
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誰も見えない。
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何をされたか、 理解できない。
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ただ。
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“存在”だけが死んでいた。
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黒い霧が揺れる。
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翔が、 いつの間にか元の位置へ戻っている。
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煙草に火を点けながら。
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「雑魚じゃねぇか」
静かな声。
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その瞬間。
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暗黒の奥で。
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無数の“目”が、 初めて揺れた。
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恐怖。
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理解不能への恐怖。
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士郎は、 獰猛に笑う。
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「始まったな」
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その瞬間。
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暗黒のさらに奥で。
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“何か”が、 ゆっくり目を開いた。




