第225話 最強の殺し屋、異世界で魔王になる
世界の果て。
◇
黒い空。
◇
静かな風。
◇
世界を支配した後の世界は、 驚くほど静かだった。
◇
戦争はない。
◇
争いもない。
◇
誰も逆らわない。
◇
恐怖だけで統一された世界。
◇
だが。
◇
その世界にはもう。
◇
王はいなかった。
◇
魔王城。
◇
玉座。
◇
そこは、 空席になっていた。
◇
世界の王は。
◇
もう、 この世界に興味を失っていた。
◇
その頃。
◇
魔王城の高塔。
◇
セレナは、 黒い空を見上げていた。
◇
紫の瞳。
◇
静かな笑み。
◇
「……行くのね」
小さな声。
◇
その表情に、 驚きはなかった。
◇
まるで。
◇
最初から、 こうなることを知っていたみたいに。
◇
その時。
◇
セレナの脳裏に、 一瞬だけ景色が過る。
◇
存在しないはずの記憶。
◇
黒い世界。
◇
壊れた境界。
◇
そして。
◇
士郎の隣に立つ男。
◇
哀沢翔。
◇
セレナは、 小さく目を細めた。
◇
「……なるほど」
静かな声。
◇
「あなただったのね」
◇
答える者はいない。
◇
それでも。
◇
セレナは理解していた。
◇
西園寺士郎を、 退屈から連れ出せる存在。
◇
あの怪物が唯一、 “対等”として見る男。
◇
それが。
◇
哀沢翔なのだと。
◇
その頃。
◇
世界の最果て。
◇
崩壊した境界領域。
◇
士郎と翔は、 並んで歩いていた。
◇
黒いコート。
◇
煙草の煙。
◇
二人とも、 まるで散歩みたいな顔をしている。
◇
だが。
◇
その足元では、 空間そのものが軋んでいた。
◇
世界が、 この怪物達を拒絶している。
◇
翔が煙草を咥える。
◇
「で?」
◇
「本当に行くのか?」
◇
士郎は、 黒い空の向こうを見る。
◇
その先。
◇
世界の外側。
◇
まだ見ぬ何か。
◇
もっと強い存在。
◇
もっと壊し甲斐のある世界。
◇
そして。
◇
士郎は笑った。
◇
獰猛に。
◇
楽しそうに。
◇
「当たり前だろ」
静かな声。
◇
「まだ、 終わってねぇ」
◇
翔は吹き出す。
◇
「違ぇねぇ」
◇
「お前が、 世界一つで満足するわけねぇか」
◇
風。
◇
その瞬間。
◇
世界の境界に、 巨大な亀裂が走る。
轟音。
◇
黒い空が裂ける。
◇
その向こう。
◇
“外側”。
◇
何かがいる。
◇
何かが見ている。
◇
だが。
◇
士郎は笑った。
◇
恐怖などない。
◇
警戒すらない。
◇
ただ。
◇
強い敵を前にした怪物そのもののように。
◇
翔が、 肩を鳴らす。
◇
「久々に、 暴れられそうだな」
◇
士郎は、 黒い重力を揺らしながら。
◇
心の底から笑った。
◇
「全部、 壊してやるよ」
◇
その瞬間。
◇
二人の怪物が。
◇
世界の外側へ、 足を踏み出す。
◇
その頃。
◇
高塔の上。
◇
セレナは、 裂けた空を見上げていた。
◇
紫の瞳。
◇
そこには、 恐怖も後悔もない。
◇
ただ。
◇
静かな好奇心だけがあった。
◇
「見せて」
小さな声。
◇
「あの怪物が、 どこまで行くのか」
◇
「どこまで壊して」
◇
「最後に、 何を見るのか」
◇
セレナは笑う。
◇
静かに。
◇
狂気みたいに。
◇
「だから私は、 あなたを見てる」
◇
そして。
◇
誰も知らない戦いが、 始まろうとしていた。
◇
『最強の殺し屋、異世界で魔王になる』
◇
第一部 完
第十一章 神殺し編 完




