第224話 霧流
玉座の間。
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静寂。
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世界の支配者達が、 跪いていた。
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アルシア。
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セレナ。
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エレノア。
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各国王。
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誰一人、 顔を上げられない。
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その中心。
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西園寺士郎。
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世界を支配した魔王。
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そして。
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その隣で。
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哀沢翔だけが、 気怠そうに立っていた。
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煙草の煙。
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無防備な姿。
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だが。
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誰も近づけない。
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本能が理解していた。
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この男もまた、 怪物だと。
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その時。
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一人の上位魔族が、 低く唸る。
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『……無礼だ』
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『魔王様の隣に、 貴様ごときが立つな』
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巨大な殺気。
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玉座の間が震える。
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それでも。
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翔は振り返りもしない。
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煙草を咥えたまま。
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「うるせぇな」
静かな声。
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次の瞬間。
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上位魔族の首が落ちた。
静寂。
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誰も見えなかった。
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斬撃も。
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移動も。
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殺気すらない。
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ただ。
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気付いた時には、 死んでいた。
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血が落ちる。
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上位魔族の身体が、 ゆっくり崩れていく。
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霧みたいに。
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存在そのものが、 消えていく。
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アルシアが目を見開く。
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「……なに、 今の」
小さな声。
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理解できない。
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速さじゃない。
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魔力でもない。
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もっと異質。
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翔は、 いつの間にか魔族の背後に立っていた。
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黒い瞳。
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冷たい目。
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「今、 話してんだけど?」
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その瞬間。
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黒い霧が、 静かに揺れる。
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空気が消える。
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気配が消える。
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存在感そのものが、 霧散していく。
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セレナですら、 一瞬見失った。
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エレノアが、 静かに目を細める。
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「……なるほど」
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「存在干渉型」
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翔は肩を竦める。
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「霧流」
静かな声。
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「相手の気を崩して、 存在ごと殺す」
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「まぁ、 殺し専用だな」
静寂。
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誰も動けない。
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理解してしまった。
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この男もまた。
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普通の強者じゃない。
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世界そのものから、 外れている。
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その時。
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玉座の上で。
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士郎だけが笑った。
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獰猛に。
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心底楽しそうに。
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「やっぱいいな」
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「その殺し方」
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翔は吹き出す。
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「お前ほど、 うるさくねぇだろ」
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士郎は立ち上がる。
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黒い重力が揺れる。
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世界が震える。
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だが。
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翔だけは、 何一つ変わらない。
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恐れない。
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跪かない。
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ただ。
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昔みたいに笑う。
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「で?」
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「もう飽きたんだろ? この世界」
静寂。
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士郎は、 黒い空を見上げた。
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世界。
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玉座。
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支配。
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全部どうでもいい。
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その向こう。
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もっと強い何か。
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もっと壊し甲斐のある何か。
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それだけが、 今の士郎を動かしていた。
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士郎は獰猛に笑う。
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「……行くか」
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翔も笑った。
◇
怪物みたいに。




