第223話 外側
深夜。
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魔王城最上階。
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崩れた神殿の屋上。
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黒い空。
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静かな風。
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世界は、 完全に沈黙していた。
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誰も逆らわない。
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誰も戦わない。
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西園寺士郎が、 頂点に立っているから。
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その屋上で。
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士郎と翔は、 並んで座っていた。
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酒瓶。
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煙草の煙。
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まるで。
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昔に戻ったみたいな空気。
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翔が煙を吐く。
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「で?」
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「魔王やってみた感想は?」
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士郎は鼻で笑う。
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「ゴミだった」
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翔は吹き出す。
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「だろうな」
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「お前、 弱ぇ奴に興味ねぇし」
静寂。
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風が吹く。
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その時。
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翔が、 ふと空を見上げた。
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黒い空。
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神界すら崩壊した世界。
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そして。
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小さく呟く。
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「……変だよな」
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士郎が視線を向ける。
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翔は続けた。
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「神ぶっ殺して」
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「原初も踏み潰して」
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「世界も取った」
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「なのに、 まだ天井がある」
静寂。
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士郎の黒い瞳が、 僅かに細まる。
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翔は笑った。
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獰猛に。
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「気付いてんだろ?」
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「この世界、 まだ“箱”の中だ」
風。
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空気が変わる。
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士郎は黙ったまま、 空を見上げる。
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黒い空。
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その向こう。
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何かある。
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そんな感覚。
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神界のさらに上。
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原初のさらに先。
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世界の外側。
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その時。
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ほんの一瞬だけ。
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空の向こうで。
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“何か”が動いた。
静寂。
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次の瞬間には、 もう消えている。
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だが。
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士郎は笑った。
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久しぶりに。
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心の底から。
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獰猛に。
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「……なるほどな」
静かな声。
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「やっと、 面白ぇ話になってきた」
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翔は煙草を咥えながら笑う。
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「だろ?」
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「だから来た」
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「お前、 絶対退屈してると思ったし」
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士郎は立ち上がる。
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黒い重力が揺れる。
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魔王。
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世界の王。
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だが。
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その目はもう。
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世界なんて見ていなかった。
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もっと先。
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もっと外側。
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もっと強い何か。
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それだけを見ている。
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翔が笑う。
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「で?」
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「次は何壊す?」
静寂。
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士郎は、 黒い空を見上げたまま。
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獰猛に笑った。
◇
「全部だ」




