第214話 決別
王都。
◇
静かだった。
◇
世界は、 既に西園寺士郎へ屈服している。
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戦争は終わった。
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神は死んだ。
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誰も逆らわない。
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それでも。
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空気だけは、 重かった。
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黒い空。
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世界全土を覆う重力。
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人々は、 息を潜めて生きていた。
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その頃。
王城最上階。
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リゼは、 一人で空を見上げていた。
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震えている。
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怖い。
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苦しい。
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それでも。
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目を逸らせない。
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そこにいるのは。
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ずっと追い続けた男だから。
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その時。
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背後に、 黒い重力が現れる。
静寂。
◇
リゼが振り返る。
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そして。
◇
息を呑んだ。
◇
西園寺士郎。
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黒いコート。
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黒い瞳。
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圧倒的存在感。
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だが。
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その姿だけは、 どこまでも変わっていなかった。
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リゼの瞳が揺れる。
◇
「……士郎」
小さな声。
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士郎は、 興味なさそうに窓の外を見る。
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「随分静かになったな」
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それだけ。
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まるで。
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世界崩壊すら、 どうでもいいみたいに。
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リゼは唇を噛む。
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言いたいことが、 山ほどある。
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怖かった。
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苦しかった。
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止めたかった。
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でも。
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目の前の男は。
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もう。
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自分の知っている士郎じゃない。
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それでも。
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リゼは震える声で言った。
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「……もう、 やめて」
静寂。
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士郎は、 ゆっくりリゼを見る。
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黒い瞳。
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感情はない。
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ただ。
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少しだけ、 不思議そうだった。
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「なんで?」
静かな声。
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リゼが息を呑む。
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士郎は本当に、 分かっていない。
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壊した。
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殺した。
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世界を踏み潰した。
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なのに。
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悪いことだと、 一切思っていない。
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リゼの瞳から、 涙が零れる。
◇
「もう…… 誰も幸せじゃない」
小さな声。
◇
「こんなの、 間違ってる……」
静寂。
◇
士郎は数秒、 黙っていた。
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そして。
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興味なさそうに、 目を逸らす。
◇
「関係ねぇよ」
静かな声。
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「弱ぇから潰れた」
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リゼの肩が震える。
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理解してしまった。
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届かない。
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もう。
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この怪物には。
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何を言っても。
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士郎は窓際へ向かう。
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黒い重力が揺れる。
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そして。
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振り返りもせずに言った。
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「お前は、 弱ぇくせに生き残った」
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「運が良かったな」
静寂。
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リゼは泣いていた。
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声も出せず。
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ただ。
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崩れていくみたいに。
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その時。
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士郎が、 ほんの僅かに立ち止まる。
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だが。
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結局。
何も言わなかった。
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黒い重力。
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次の瞬間。
◇
西園寺士郎は、 静かに消えた。
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残されたリゼだけが。
◇
泣き続けていた。




