第212話 屈服
世界。
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壊れていた。
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黒い重力だけで、 文明が沈んでいく。
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都市崩壊。
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山脈断裂。
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海面暴走。
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空そのものが、 士郎という存在に怯えていた。
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そして。
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世界中の軍勢は、 既に戦うことを諦め始めていた。
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人類連合軍。
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聖騎士団。
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魔導国家。
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魔族軍。
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誰も近づけない。
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ただ存在しているだけで、 全てが押し潰される。
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絶対的。
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それが、 今の西園寺士郎だった。
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その中心。
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黒い空に浮かぶ士郎は、 退屈そうに世界を見下ろしている。
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黒い瞳。
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そこには。
征服の喜びすらない。
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ただ。
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「終わりか?」
静かな声。
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「随分呆気ねぇな」
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その瞬間。
世界中の人々が、 震えた。
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理解してしまう。
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この怪物は。
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“世界征服”すら目的ではない。
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ただ。
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強者を潰すことだけを、 楽しんでいる。
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その頃。
王都。
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王城では、 各国首脳が膝をついていた。
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絶望。
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誰も戦おうとしない。
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いや。
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もう戦えない。
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その時。
一人の王が、 震える声で呟く。
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「……降伏する」
静寂。
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その言葉を皮切りに。
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次々と、 各国が頭を垂れた。
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世界は。
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西園寺士郎へ、 屈服し始めていた。
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その頃。
魔界領域。
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アルシアは、 静かに玉座の前へ跪いていた。
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誰も命じていない。
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だが。
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本能だった。
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白銀の髪が揺れる。
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紅い瞳。
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その視線の先。
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黒い空。
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アルシアは、 恍惚すら浮かべながら呟く。
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「魔族の時代ですらない」
静かな声。
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「あれは、 あの方の時代」
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周囲の魔族達も、 次々と膝をつく。
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恐怖。
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畏怖。
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絶対服従。
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誰も逆らえない。
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その時。
崩れた鐘楼。
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セレナだけは、 静かに笑っていた。
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「全部、 終わっちゃったわね」
静かな声。
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「あなたが、 強すぎるせいで」
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だが。
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その瞳は、 どこか寂しそうだった。
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何故なら。
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西園寺士郎は。
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世界を手に入れてなお。
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どこまでも、 孤独だったから。




