第210話 世界の王
世界。
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沈黙。
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誰も逆らえなかった。
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空を見上げることすら、 恐怖になっていた。
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黒い空。
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その中心。
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西園寺士郎。
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世界を見下ろす魔王。
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神を殺した。
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原初を踏み潰した。
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そして今。
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世界そのものが、 その存在へ屈服し始めている。
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各国の軍隊。
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魔導国家。
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聖騎士団。
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竜族。
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全てが動けない。
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戦う前に理解してしまった。
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勝てない。
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これは。
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災害でも。
怪物でも。
神でもない。
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もっと別の何かだ。
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その時。
世界各地で、 一斉に膝が落ちる。
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黒い重力。
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士郎が存在しているだけで、 世界そのものが軋んでいた。
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その中心。
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士郎は退屈そうに、 地上を見下ろしていた。
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黒い瞳。
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そこには。
支配欲も。
征服欲も。
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何もない。
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ただ。
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「弱ぇな」
静かな声。
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「全部」
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その言葉だけで。
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世界中の空気が、 凍りついた。
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その頃。
王都。
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王城では、 各国首脳が集められていた。
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絶望。
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沈黙。
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誰も言葉を発せない。
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神ですら負けた。
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なら。
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何をどうすれば、 あの怪物を止められる。
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その時。
エレノアが、 静かに口を開く。
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赤い瞳。
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「無理よ」
静かな声。
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「もう、 誰にも止められない」
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王達が息を呑む。
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エレノアは、 静かに空を見上げた。
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そこにいる怪物を。
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自分が導いた男を。
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そして。
初めて。
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ほんの僅かに。
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後悔していた。
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「……想像以上だったわ」
小さな声。
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その頃。
魔界領域。
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崩れた魔王城。
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無数の魔族達も、 黒い空を見上げていた。
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震えている。
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歓喜ではない。
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恐怖。
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誰もが理解していた。
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あれは、 自分達の王ではない。
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魔族ですら、 踏み潰される側だと。
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その中心。
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玉座の前で。
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アルシアだけは、 静かに空を見上げていた。
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白銀の髪。
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紅い瞳。
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そこにいるのは。
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神を殺した怪物。
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そして。
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自分達が待ち続けた、 “魔王”。
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アルシアは小さく笑う。
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震えながら。
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「……あぁ」
静かな声。
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「これが、 本物の魔王なのね」
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歓喜。
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恐怖。
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畏怖。
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全部混ざっていた。
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何故なら。
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彼女だけは理解していた。
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あの怪物は。
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魔族の味方ですら、 ない。
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その頃。
崩れた鐘楼。
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セレナは、 静かに笑っていた。
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紫の瞳。
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その視線の先。
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空に浮かぶ魔王。
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「ねぇ」
静かな声。
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「今、 どんな気分?」
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もちろん届かない。
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だが。
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セレナは分かっていた。
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今の士郎には。
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世界すら、 退屈にしか見えていない。




