第180話 器
神界総攻撃。
◇
無数の神槍。
神罰。
神威砲撃。
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空そのものが、 黄金に染まっていた。
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その中心。
◇
黒。
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西園寺士郎だけが、 真正面から神々を押し返していた。
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轟音。
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黒い重力が、 神槍群を圧壊する。
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神威砲撃が、 触れた瞬間に呑み込まれる。
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兵士たちは、 もはや声も出ない。
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神々。
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そして。
それを一人で蹂躙する怪物。
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完全に。
世界の外側の戦いだった。
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その時。
エレノアが士郎を見る。
赤い瞳。
険しい顔。
◇
「……侵食が速すぎる」
小さな声。
◇
リゼが振り向く。
「え……?」
◇
エレノアは唇を噛む。
◇
「このままだと、 士郎が消える」
静寂。
◇
リゼの顔が青ざめる。
「消えるって……」
◇
エレノアは空を見る。
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黒い重力。
神威。
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そして。
士郎の全身を覆う、 原初の侵食。
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「原初は、 本来“器”を持たない」
静かな声。
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「存在そのものが災厄」
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「だから普通の人間なら、 触れた瞬間に壊れる」
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グランが息を呑む。
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「だが士郎は……」
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エレノアが続ける。
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「耐えてる」
静寂。
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「あり得ないほど」
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その時。
上位神が再び声を発した。
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『異常個体』
世界へ響く声。
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『器の自我が、 未だ残存』
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『理解不能』
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その瞬間。
士郎の黒い瞳が、 わずかに揺れる。
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自我。
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残存。
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最近。
自分でも分かっている。
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少しずつ。
自分が変わっていることを。
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頭の奥で、 原初の声が笑う。
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『お前はお前だ』
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『だから壊せ』
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『全部』
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士郎は小さく笑った。
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だが。
その笑みは、 どこか空っぽだった。
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その時。
黄金の門の奥。
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さらに巨大な神威が漏れ出す。
轟音。
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兵士たちが絶叫する。
「まだ来るのか!?」
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エレノアの顔色が変わる。
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「……違う」
小さな声。
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「来るんじゃない」
静寂。
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「天上そのものが、 降りてくる」
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グランが目を細める。
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「お前、 何を知ってる」
静寂。
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エレノアは少し黙る。
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赤い瞳。
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その奥に。
初めて。
焦りが見えた。
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そして。
低く呟く。
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「私は、 原初を殺したいだけよ」
静寂。
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リゼが目を見開く。
「……は?」
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だが。
エレノアは士郎から目を離さない。
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黒い怪物。
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西園寺士郎。
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そして。
小さく呟いた。
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「そのために、 あいつが必要だった」
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その頃。
崩れた鐘楼の上。
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セレナが静かに空を見上げていた。
紫の瞳。
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黄金の門。
神々。
原初。
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全部が、 最悪の形で噛み合い始めている。
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だが。
セレナの視線は、 神々ではなく。
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士郎だけを見ていた。
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黒い紋様。
黒い瞳。
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壊れていく怪物。
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セレナは小さく目を伏せる。
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「……あなた、 まだ残ってるのね」
静かな声。
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「あんな姿になっても」
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遠く。
神々へ笑う士郎。
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その笑みの奥に、 まだ微かに残る“人間”。
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セレナはどこか苦しそうに呟く。
◇
「だから私は、 あなたを見捨てられないのよ」




