第145話 開戦前夜
帝国中央議会。
◇
巨大な円形会議場。
赤い絨毯。
黄金の柱。
そして。
重苦しい空気。
◇
帝国上層部。
元帥。
将軍。
貴族。
魔導院。
◇
全員の前へ、一枚の資料が置かれていた。
◇
『西園寺士郎』
◇
静寂。
◇
帝国元帥バルディウスが口を開く。
白髪。
巨体。
右目には古傷。
◇
「確認する」
低い声。
◇
「十三英雄戦争において、世界防衛戦線は壊滅的被害を受けた」
◇
空気が重くなる。
◇
「原因は一人」
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資料へ刻まれた名前。
◇
西園寺士郎。
◇
元帥の瞳が細くなる。
「もはや人類単位での対処は不可能」
静寂。
◇
「故に帝国は決断した」
◇
次の瞬間。
巨大地図が展開される。
◇
魔族領全域。
侵攻ルート。
兵站。
軍勢配置。
◇
完全戦争。
◇
将軍たちが笑う。
「数で押し潰せばいい」
「所詮は一人だ」
「国家には勝てん」
◇
しかし。
一人だけ笑っていない男がいた。
◇
帝国最強騎士。
レオンハルト。
◇
黒い鎧。
鋭い眼光。
腰には長剣。
◇
彼だけは知っている。
十三英雄戦争の記録を、全部読んだから。
◇
“アレ”は、数でどうにかなる存在じゃない。
◇
その時。
皇帝が立ち上がる。
◇
帝国皇帝グラディウス。
◇
黄金の外套。
圧倒的威圧。
◇
「西園寺士郎は危険だ」
静寂。
◇
「故に」
赤い瞳。
冷酷な声。
◇
「帝国は、“怪物”を討つ」
轟音。
◇
帝国軍総動員。
正式決定。
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その頃。
魔王城。
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リゼが資料を見ながら顔を引きつらせていた。
「いや待って待って待って」
「軍勢の数おかしくない!?」
◇
グランがため息を吐く。
「帝国本気だからな」
◇
数百万規模。
飛空戦艦。
古代魔導砲。
竜騎兵団。
◇
世界最大軍事国家。
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それが全部、士郎一人へ向く。
◇
それでも。
士郎は笑っていた。
◇
「いいじゃねぇか」
リゼが叫ぶ。
「よくない!!」
◇
その時。
エレノアが士郎を見る。
赤い瞳。
少し険しい。
◇
「……士郎」
静寂。
◇
「本当に全部潰す気?」
◇
士郎は少しだけ黙る。
黒い瞳。
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戦争。
殺し。
敵。
◇
今までなら、迷わなかった。
◇
それでも。
今は違う。
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十三英雄戦争。
原初。
侵食。
◇
あの戦い以降。
ほんの少しだけ。
士郎の中で、何かが変わり始めていた。
◇
それでも。
次の瞬間。
士郎は笑った。
獰猛に。
◇
「向こうが来るなら潰す」
静寂。
◇
エレノアは小さく目を伏せる。
◇
その答えが、士郎らしいと分かっているから。




