第138話 黒き歓喜
原初の腕が吹き飛ぶ。
◇
轟音。
黒い破片が空へ散る。
◇
兵士たちが絶句する。
「あ……」
「腕を……」
「原初の魔王を……」
◇
信じられない。
神話。
災厄。
世界崩壊存在。
◇
それを。
西園寺士郎が殴り砕いた。
◇
しかし。
士郎は笑っていた。
歓喜。
◇
「いい」
黒い瞳。
赤が濃い。
◇
拳を握るたび、黒い靄が膨れ上がる。
◇
エレノアの顔が険しくなる。
「まずいわね……」
アルシアも頷く。
◇
士郎は今。
原初と戦うことで、逆に原初へ近づいている。
◇
強敵と戦うほど。
歓喜するほど。
侵食が進む。
◇
その時。
空の“目”が動いた。
◇
兵士たちが凍りつく。
視線。
怒り。
あるいは。
歓喜。
◇
まるで。
原初の魔王そのものが、士郎へ興味を持ち始めていた。
◇
その瞬間。
空間が裂ける。
轟音。
◇
無数の黒い腕。
今度は数十本。
◇
兵士たちが絶望する。
「ふ、増えた……」
「終わりだ……」
◇
ミリアが叫ぶ。
「全軍後退!!」
蒼い魔眼。
完全に焦っていた。
◇
これはもう戦争じゃない。
世界災害。
◇
その時。
ガレスが笑った。
血まみれ。
それでも。
笑っている。
◇
「最高じゃねぇか!!」
リゼが怒鳴る。
「アンタだけテンションおかしいのよ!!」
◇
しかし。
士郎も笑っていた。
完全に。
戦いへ酔っている。
◇
『受け入れろ』
『壊せ』
『もっとだ』
頭の奥の声。
以前より近い。
◇
士郎の黒い瞳が揺れる。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
◇
黒い紋様が、心臓付近まで侵食した。
◇
エレノアが目を見開く。
「……速い」
◇
シグルドも気づく。
青い瞳。
険しい。
◇
このまま戦えば。
士郎は勝つかもしれない。
◇
しかし。
その時には。
“士郎”が消える。
◇
その瞬間。
数十本の黒い腕が、一斉に振り下ろされた。
轟音。
◇
空間崩壊。
大地消滅。
世界震動。
◇
十三英雄たちが迎え撃つ。
シグルドの斬撃。
アッシュの神速槍。
ミリアの超級魔法。
ガレスの巨斧。
◇
それでも。
押し切れない。
◇
兵士たちが吹き飛ぶ。
戦線壊滅。
◇
その時。
士郎が笑った。
歓喜。
◇
「もっと来い」
黒い靄が爆発する。
◇
次の瞬間。
士郎の背後。
巨大な黒い影が、さらに実体化した。
◇
兵士たちが絶叫する。
「ま、魔王……!」
◇
影が。
士郎と同じ動きをする。
◇
拳を振り上げる。
轟音。
◇
巨大な黒い拳が、数十本の原初の腕へ叩き込まれた。




