第133話 望み
黒い空。
崩壊する戦場。
無数の裂け目。
そして。
その中心。
西園寺士郎。
◇
シグルドの言葉だけが、静かに残っていた。
「お前は、何を望む」
静寂。
兵士たちも。
十三英雄も。
魔族たちも。
全員が士郎を見る。
世界を壊しかけている怪物。
その男が、何を求めているのか。
◇
士郎は少し黙っていた。
黒い瞳。
赤が混ざる。
頭の奥では、まだ声が響いている。
『壊せ』
『喰らえ』
『奪え』
うるさい。
鬱陶しい。
しかし。
シグルドの問いだけは、妙に耳に残った。
◇
士郎は鼻で笑った。
「知らねぇな」
静寂。
◇
「生き残るために殺して」
「強ぇ奴と戦って」
「気づけば、ここにいた」
士郎は黒い空を見る。
「それだけだ」
◇
戦場が静まり返る。
シグルドは黙って聞いていた。
青い瞳。
真っ直ぐに。
◇
その時。
頭の奥の声が強くなる。
『違う』
『お前は魔王だ』
『世界を壊せ』
轟音。
黒い靄が暴れる。
空間歪曲。
兵士たちが吹き飛ぶ。
しかし。
士郎は拳を握った。
抑え込む。
自分で。
◇
シグルドが目を細める。
「……抗っているのか」
士郎は笑った。
苦しそうに。
「気に入らねぇんだよ」
静寂。
「頭ん中でゴチャゴチャ喋られるの」
◇
ガレスが吹き出す。
「理由がシンプルすぎんだろ!!」
リゼも思わず叫ぶ。
「そこ!?」
◇
しかし。
シグルドは笑わなかった。
理解した。
この男。
世界を滅ぼそうとしているんじゃない。
滅びながら戦っている。
◇
その時。
ミリアが顔をしかめる。
蒼い魔眼。
「待って」
静かな声。
「侵食が止まってない」
空気が変わる。
士郎の黒い紋様。
さらに広がっている。
首元まで。
◇
エレノアの顔色が変わる。
「まずいわね……」
いくら士郎が抗っても。
原初の力そのものは、確実に士郎を侵食している。
◇
その時。
空が軋んだ。
轟音。
全員が顔を上げる。
◇
黒い空。
その中心。
巨大な“目”のようなものが、ゆっくり開き始めていた。
◇
兵士たちが絶叫する。
「な、何だアレ……!」
「空に……目が……!」
◇
ミリアの顔から血の気が引く。
「……嘘」
蒼い魔眼。
震えていた。
「あれは……」
静寂。
◇
「原初の魔王の“視線”よ」




