第128話 原初の紋章
魔王城北部戦線。
◇
黒い空。
崩壊する大地。
そして。
士郎の足元へ浮かび上がる、巨大な黒い紋章。
◇
禍々しい。
古い。
見ているだけで本能が拒絶する。
◇
兵士たちが震える。
「な、何だ……」
「あれは……」
「見てるだけで頭が……!」
◇
ミリアの蒼い魔眼が揺れる。
「……原初級術式」
信じられないものを見る顔。
◇
アッシュが眉をひそめる。
「知っているのか」
ミリアは黒い紋章を睨む。
◇
「神代文明以前」
「世界が一度滅びかけた時代」
静かな声。
それでも。
震えていた。
◇
「“原初の魔王”を象徴する紋章よ」
静寂。
◇
兵士たちの顔色が変わる。
伝承。
神話。
禁忌。
◇
それが。
今、目の前にある。
◇
その時。
士郎が頭を押さえる。
黒い瞳。
赤が濃い。
◇
『壊せ』
『奪え』
『喰らえ』
『お前が魔王だ』
声が止まらない。
◇
士郎の表情が歪む。
苦痛。
苛立ち。
歓喜。
全部混ざっていた。
◇
リゼが叫ぶ。
「士郎!!」
それでも。
士郎は反応しない。
◇
黒い靄がさらに膨れ上がる。
轟音。
空間歪曲。
◇
兵士たちが吹き飛ぶ。
戦線崩壊。
完全に制御不能。
◇
シグルドが踏み込む。
白銀の剣。
神速。
◇
「西園寺士郎!!」
斬撃。
一直線。
◇
しかし。
士郎は片手で止めた。
静寂。
◇
白銀の剣が、黒い靄へ押し潰されていく。
◇
シグルドの青い瞳が揺れる。
重い。
以前より明らかに。
◇
士郎が笑った。
それでも。
その笑みは、少しだけ“違った”。
◇
「……邪魔だ」
低い声。
冷たい。
◇
次の瞬間。
拳。
轟音。
◇
シグルドの身体が吹き飛ぶ。
白銀の鎧が砕ける。
地面激突。
血飛沫。
◇
兵士たちが絶叫する。
「シグルド様ァ!!」
◇
ガレスが笑いながら突っ込む。
「いいぞ化け物!!」
巨大斧。
全力。
◇
士郎は振り向きもしない。
黒い靄が膨れる。
◇
ガレスの斧ごと、周囲空間が圧壊した。
轟音。
◇
ガレスが初めて顔を歪める。
「ッ……!」
◇
止められない。
近づけない。
◇
アッシュが即座に援護へ動く。
神速槍撃。
それでも。
士郎の周囲だけ、空間そのものが狂っていた。
◇
槍が届かない。
距離感が歪む。
◇
ミリアが顔を青ざめさせる。
「存在干渉まで……!?」
◇
エレノアが士郎を見る。
赤い瞳。
険しい。
◇
違う。
これはもう、単なる暴走じゃない。
◇
“覚醒”だ。
◇
その時。
士郎の黒い瞳が、ゆっくりリゼを見る。
◇
リゼの背筋が凍る。
怖い。
今までで一番。
◇
それでも。
その瞳の奥。
ほんの少しだけ。
苦しそうだった。
◇
そして。
士郎が小さく呟く。
「……うるせぇ」
その瞬間。
黒い紋章が、さらに広がり始めた。




