第107話 黒き災厄
聖王国。
中央大聖堂。
巨大な会議室。
空気は最悪だった。
◇
円卓を囲むのは。
聖騎士団。
大司教。
王国貴族。
各国代表。
人類側中枢。
◇
全員の表情は青ざめていた。
理由は一つ。
中央水晶へ映し出される映像。
◇
黒い靄。
赤黒い瞳。
そして。
白銀騎士シグルドを叩き潰す男。
西園寺士郎。
◇
静寂。
誰も喋れない。
信じられない。
人類最強格が敗北した。
しかも。
正面から。
◇
老司教が震えた声を漏らす。
「……アレは魔王だ」
別の貴族が怒鳴る。
「違う!!」
「人間だと報告が——」
「人間であんなものが存在してたまるか!!」
会議室が荒れる。
恐怖。
焦燥。
怒号。
完全に混乱していた。
◇
その時。
扉が開く。
静寂。
全員が振り向く。
◇
白銀の鎧。
純白の外套。
そして。
静かな青い瞳。
シグルド・アークライン。
◇
空気が変わる。
英雄が戻った。
しかし。
その姿を見た瞬間。
全員が理解した。
勝てなかった。
◇
シグルドは黙って席へ座る。
血痕。
砕けた剣。
それだけで十分だった。
◇
老司教が震えながら聞く。
「……本当に敗れたのか」
静寂。
シグルドは少し黙る。
そして。
静かに答えた。
「あれは危険です」
重い声。
会議室が静まり返る。
◇
「既存の魔王とは違う」
青い瞳。
真っ直ぐ前を見る。
「目的が読めない」
「支配欲もない」
「思想すら曖昧だ」
静寂。
◇
「ですが」
シグルドの声が低くなる。
「あれは確実に、世界を壊す」
空気が凍る。
◇
人類最強格。
その英雄が。
断言した。
“災厄”だと。
◇
大司教が顔を歪める。
「討伐するしかあるまい……!」
別の貴族も叫ぶ。
「全国家へ通達しろ!!」
「魔族と結託した裏切り者だ!!」
「存在を許すな!!」
◇
その時。
会議室奥。
一人の老神官が静かに呟いた。
「……黒き災厄」
静寂。
全員の視線が向く。
◇
老神官は、水晶の士郎を見る。
黒い靄。
赤黒い瞳。
完全に人外の存在感。
◇
「神話に記されている」
震える声。
「世界を破滅へ導く“黒の魔王”」
「まさか……本当に存在したとは……」
空気がさらに重くなる。
◇
シグルドは黙っていた。
青い瞳。
脳裏へ浮かぶのは。
戦場で笑っていた男。
◇
恐怖はない。
けれど。
理解していた。
放置すれば終わる。
世界そのものが。
◇
その頃。
魔王城。
最上階。
士郎は夜空を見ていた。
黒い靄。
赤黒い瞳。
静かな空気。
◇
リゼが後ろから近づく。
「……何してるの?」
士郎は空を見る。
「別に」
いつもの声。
ただ。
以前より少し低い。
◇
リゼは少し黙る。
そして。
小さく聞いた。
「怖くないの?」
静寂。
◇
「世界中から殺されようとしてるんだよ?」
普通なら壊れる。
逃げる。
怯える。
けれど。
士郎は笑った。
獰猛に。
「最高じゃねぇか」
リゼは呆れる。
「やっぱり化け物……」
◇
ただ。
その時だけ。
士郎の笑みが、少しだけ寂しそうに見えた。




