『上方の速記』
掲載日:2026/03/06
ある田舎に、速記の知識に優れた者があった。しかし、田舎の速記を知っていたところで、本当の物知りとは言えないと思って、都へ上って、都の速記を覚えることにした。
都に入る前、宿屋に泊まろうと、のれんをくぐると、番頭とおぼしき男が、お上洛ですかお下洛ですかと言う。何のことかと考えていると、番頭が、これから京へお上りですか、京からお下りですか、と言い直してくれた。上洛、下洛というのは、そういう意味なのかと思い、書きとめた。
翌日、宿を出ると、普請場があって、大きな石をよいこらさ、よいこらさと大勢の人足が引いている。たまたま通りかかった母親が、泣いている子供をあやそうとして、ほらよいこらさだよ、よいこらさをごらん、と言っているのを聞いて、なるほど、上方では、石のことをよいこらさというのか、と思い、この後も、見聞きするものを次々と書きとめていった。
教訓:言葉の意味が正しくないままに言葉を書きとめたため、速記も誤って理解されたという。




