隠
「お母さん、どこ?…」
見た目4,5才だろう、ウサギの耳のように2つにくくられた髪を揺らしながら、これまたウサギのように目を赤くした女の子が人の波間に見える。
「おじょーさん、どうしたのかな?」
女の子がとある筋へと足を向けた先で黒いコートを着た男が話しかける。
「お母さん、いないの」
女の子の目線に会わせ屈み笑顔で問う男に警戒心も無く答える。
「そっかーお母さんいないのか。どれ、おじさんが手伝ってあげよう」
手を繋いで路地の奥へと進んでいく。
暫く歩くと赤い鳥居が見えてきた。
手を繋いだまま神社の敷地内へと足を踏み入れる。すると女性が抱いた赤ん坊をあやしていた。
「あっ、お母さんだ!」
喜びの声をあげ、駆け寄ろうとするが、男が手を離さない。女も聞こえたはずの声に顔を向けもしない。
「おじさんはなして」
「…」
懇願する女の子をよそに男は女を見据える。
暫くして女の子の手を引いて女性に話し掛ける。
「こんにちは」
すると女もこちらを見る。いや、男だけを見て
「こんにちは。今日は良い天気ですね、参拝ですか?」
「…いえ。この子をお届けに」
「…その子ですか?まぁ、どちらまで?」
「もう着きましたよ。貴女の子でしょう?いささか早すぎたようですよ」
「…まぁ…そうでしたか」
ありがとうございました、とお礼を言って女の子の手を引いて神社の奥、林の方へと去って行った。
「先生、結局あのこは何なんだってんです?」
団栗目をした一見性別を疑いたくなる少年が、両手で己の頬を包み男へと尋ねる。
「狐さ。赤ん坊がいたろう?親離れの為に突き放しに人に化けさせ放置したらしいが…」
「獅子が千尋の谷に…てヤツですか?」
「あぁ。人よりよほど教育上手だよな。人が狐に化けた方が世の中のためになるだろうよ」
男がそう言うと二人は目の前にあるコーヒーとココアを飲んだ。
開いた窓から子供逹の笑い声が聞こえる。