救われた者たちの視線 (元奴隷の少女の視点)
仲間が死ぬのを見た光景は、忘れられるものじゃない。
冒険者として駆け出しだったあの頃、酒場での笑い声も、依頼を受ける前の緊張も、すべてはあの日を境に音を失った。
奴ら――山賊が現れた。
狼の群れのように私たちを囲み、仲間たちは私を守って戦って…そして、殺された。
私は、ただ“戦利品”として捕らえられた。
人ではなく、モノとして。
どれくらいの時間が経ったのかも分からない。ただ、暗く冷たい毎日を繰り返していた。
希望だけが、かろうじて心をつなぎとめていた。
「誰かがきっと助けに来てくれる」
そう信じていた。
そして、彼女が現れた。
最初、顔は見えなかった。
逆光の中で、彼女の姿はまるで幻のように浮かび上がっていた。
見えたのは、その手に持った湾曲した刃と、静かな足取り、そして――沈黙。
彼女は一言も発さずに、錠を壊し、鎖を断ち切っていった。
私たちの「ありがとう」は、泣き声に混じっていた。
その手にすがる者もいた。まるで天使を見るような瞳で彼女を見つめる者もいた。
でも――
彼女の目に、私たちは映っていなかった。
涙が肌に触れた。
汚れた服に、乾いた血に、涙のぬくもりが染み込んでいった。
けれど、そのぬくもりすら彼女の心には届かないようだった。
彼女の唇はわずかに震えていた。
言葉にならない叫びが、胸の奥に閉じ込められているようで――
それが出れば、何かが壊れてしまうと、そう感じさせる沈黙だった。
誰も、彼女の目を見なかった。
誰も、気づかなかった。
その目が、もはや光を失っていることに。
私たちが服を探している間も、
彼女は背を向け、物資を漁り、金貨の袋を置いていった。
まるで、自分には関係のない世界のように。
「……」
言葉はなかった。
ただ、静かに背を向けて、歩き出した。
英雄なんかじゃない――
その思いが彼女の背から伝わってきた。
私たちを守れるとも、導けるとも、思っていない。
だからこそ、誰も止められなかった。
それでも、私たちは彼女の背中を追った。
どこへ行くかも分からない。
なぜ助けてくれたのかも分からない。
でも――
その不安定で不思議な足取りだけが、唯一確かなものだった。




