逃げ帰った盗賊の視点
湿った森の匂いが鼻を突いた。息は荒く、心臓は胸を突き破るほど打ち続けていた。枝が顔や腕を引っかき、動物のように必死に逃げる。
頭から離れなかったのは、あの存在だ。
最初の仲間に何が起きたのか分からなかった。ただ、何かが肉を貫くような鈍い音がして、彼の体が音もなく崩れ落ちたのだ。
それをやったのは――あの奇妙な鉄の塊。形も知らない。けれど、ただひとつ分かった。
「あれは武器だ。そして死をもたらす。」
だがそれ以上に、あの存在だった。
あれは戦士でも、騎士でも、刺客でもなかった。
まるでこの世界のものではない…
この世の「死」が、異形の姿をまとって現れたかのようだった。
「あれは人間じゃない。呪われた霊魂だ…」
そう思いながら、彼はほとんど嘔吐しそうなほどの恐怖と疲労の中、洞窟の入口へとたどり着いた。
仲間たちが焚き火の周りで飲み食いしながら声を上げた。
—「あれ?おい、女はどこに行った!?」
—「まさかお楽しみの後で殺したのか?」
—「チッ、俺が行くべきだったな!」
嘲笑と欲望の混じった声。女を人とも思わず、ただの「物」として語るその声。
だが、逃げ帰った男は何も答えず、よろめきながら奥へと進む。
彼が向かったのは――
コルガン・ザ・リッパー(裂き裂きのコルガン)
炎の奥、酒と肉の匂いが充満する空間。
獣のように肉をかじり、盗んだワインをラッパ飲みしていたその男。
皮膚は傷だらけ、筋肉は膨れ、目は飢えた獣。
背後には女たちが数人。笑わず、話さず、ただ震えながら座っていた。
彼の横には、一振りの大剣。まるで柱のように地面に突き刺さっていた。
逃げてきた男はその足元に崩れ落ち、息を切らしながら叫んだ。
—「ボス…あいつは…あいつは一人じゃなかった…!」
コルガンは目だけを動かして見下ろす。
—「何を言ってやがる?」
—「霊…化け物です…鉄の塊でグルモの胸が…爆ぜたんです!音も光もないのに…何かが体を貫いた!俺たちを…見ていた…喋らず、ただ…狩っていた!」
沈黙。
コルガンは口の端をゆがめ、唇から油が垂れた。
—「霊か…召喚か…そいつは面白ぇ。」
ゆっくりと立ち上がる。肉を咀嚼しながら、くぐもった声で笑う。
—「そんなもん、関係ねぇ。もしあのガキがそんなもん飼ってるってなら――」
目が妖しく光る。
—「そいつは当たりだ。もしかしたら貴族のガキか、どこかの魔術師かもな……だがな――」
大剣を片手で持ち上げ、肩に担ぐ。床がわずかに鳴った。
—「目の前に現れさえすりゃ、泣き喚くまで遊んでやる。壊す前にな。」
焚き火の周りにいた他の盗賊たちがどっと笑う。
女たちは身を震わせ、顔を伏せた。
コルガンは血走った目で仲間たちを見渡し、叫ぶ。
—「全員準備しろ!今夜は狩りだ!」
—「もしこの腰抜けが本当のことを言ってるなら――」
—「面白ぇ夜になるぜ…!」




