戦の踊りの余韻 (3)
エリザベスは、オークの攻撃が迫ってくるのを感じ、反応する暇もなかった。本能のままに、思いきり身をかがめた。
斧が髪のすぐ上をかすめ、風を裂く音が耳を打つ――その瞬間、彼女の背筋に冷たい震えが走った。
斧は重すぎて、再び持ち上げるのに時間がかかると踏んだエリザベスは、すぐに立ち上がり、オークへと一気に詰め寄った。
全身の力を込めて、マチェーテでその膝当てを叩きつけた。
邪悪な雰囲気を放つその鎧は頑丈だったが、エリザベスの一撃は、それでもわずかに装甲を歪ませた。
切り傷はできなかったが、ダメージは蓄積されているはずだった。彼女はそう信じた。
「ぶっ倒れろよ、このクソ豚ッ!」
理性はどこかへ飛んでいた。オークの苦悶の叫びだけが、彼女の中で響き続けていた。
オークは怒り狂い、痛みに耐えながらも立ち続けていた。そして、重い兜を投げ捨てると、それをエリザベスめがけて投げつけてきた。
まるで虫けらでも潰すかのように。
彼女は大きく飛び退き、兜が地面に激突するのを目撃した。そこには亀裂が走り、土煙が舞い上がった。
「来いよ、このブタ野郎! 神々への供物になってもらうからな!」
彼女の体にはまだ、「戦いの舞」の力が宿っていた。血が沸騰し、筋肉が張り、ほんのわずかに膨れ上がっている。
金色に輝くその儀式衣装が、神聖な加護の証のように光を放つ。
そして、彼女はもう一度、あの死の笛を使うことを決意した。
「エエカチチトリ、もう一度だ!」
地獄の扉が再び開かれ、凄まじい悲鳴が響き渡る。
オークはたまらず両手で耳を塞ぎ、戦意を喪失したかのように辺りを見回し始めた。
その怯えた姿は、まるで魂の奥底で“死”そのものに語りかけられているようだった。
エリザベスは一瞬の隙を見逃さなかった。
今まで使ってこなかった魔法の杖を手に取り、まるで槍のように構え――
そのまま渾身の力でオークの頭へ向けて投げつけた。
――命中。
杖は見事、オークの片目に突き刺さった。オークは絶叫を上げた。
そしてその隙に、彼女は両手でマチェーテを握り直し、もう片方の膝をめがけて全力で叩き込んだ。
今度は、鎧を貫通し、肉までも切り裂いた。
しかし、代償は大きかった。
彼女の大切なマチェーテは、粉々に砕け散ってしまったのだ。
オークは地面に崩れ落ちた。
残されたのは、無傷の左腕だけ。右腕と右足はもはや使い物にならない。
それでも立ち上がろうとする彼の姿は、もはや怒りと混乱の象徴だった。
「なぜだ…なぜこんな小さな女に、ここまでやられるんだ…?」
彼のうめきが、空気ににじむ。
エリザベスは肩で息をしながらも、まだ――立っていた。
戦いは、まだ終わっていなかった。




