貧しい者の毛布」
階段を下りてからの緊張感は、目の前の不思議なゼリー状の生き物たちに近づくにつれて、少しずつ和らいでいった。
攻撃的な様子はなかった。
唸り声も上げず、空腹で襲いかかってくることもなかった。
ただそこに存在していた。
柔らかく動きながら、まるで無音の音楽に合わせて呼吸しているかのように。
エリザベスはまだ少し緊張していたが、恐怖よりも好奇心が勝ち始めていた。
「危険……なのかな? それとも……ただのぷるぷる?」
ゆっくりと手を伸ばす。慎重に、何かあった時すぐに引けるように身構えながら。
目の前の水色のスライムに指を近づける。スライムは反応しない。静かにぷるんと揺れているだけだった。
そして——触れた。
「っっあああああっ!? しゅしゅしゅ——!!」
叫び声にならない悲鳴。驚きと痛みが一気に走る。
指をすぐに引っ込めて口元へ、そしてもう片方の手でぎゅっと押さえつけた。
(やばい、これ……酸じゃん!? 掃除用の酸性洗剤とか触った時と同じ……!)
ジリジリと焼けつくような感触。まるで開いた傷口に漂白剤をかけたような——。
「ぐぅぅううう〜〜〜っ!! こ、こ、こいつ、しゅっしゅっしゅ〜〜〜っ!!」
怒りと痛みが混ざり、意味不明な擬音の嵐に。
本能的に、エリザベスは指を強く押さえた。小さい頃から何かをぶつけたり、痛めたりした時にそうする癖があった。それが少し痛みを和らげてくれる。
—「よし……確認完了。スライムは触っちゃダメ。地味に痛い。」
数歩下がりながら、ジロリとスライムを睨む。
スライムは相変わらずぷるぷると揺れていて、何も気にしていないようだった。
洞窟内の光は奇妙だった。
暗すぎるわけでもなく、明るすぎるわけでもない。まるで薄暗い夕方が続いているような空間。
—「うーん……これじゃ探索しにくいな。もっと光が欲しい。」
彼女は首に巻いていたスカーフの中を探った。カードたちがかすかに震え、指の間を滑っていく。
その中から一枚、自然に浮かび上がってきた。
「El Sol(太陽)」
—「太陽……ここで使ったらどうなるかな?」
エリザベスはカードを持ち上げ、はっきりと唱えた。
—「La cobija de los pobres. ¡El Sol!」
その瞬間、彼女は目を閉じなかったことを後悔した。
まばゆい光の爆発。
まるで真昼の砂漠にいるような、強烈な太陽光がカードからあふれ出し、洞窟全体を照らした。
「うあああっっっっ!? 目がぁぁぁぁ!! しゅっしゅしゅしゅぅ〜〜〜っ!!」
目を強くこすりながら、エリザベスは涙目で周囲を確認する。
空中には、小さな太陽が浮かんでいた。
……それも、変な見た目の太陽だった。
サングラスをかけていて、細い手足には白い手袋。
まるで子供番組のキャラクターみたいだった。
その姿に思わず笑ってしまう。
「な、なにこの子……ランプのマスコット?」
光が満ちた洞窟には、今まで見えなかったものがあらわになっていく。
岩の割れ目や、キラキラと光る鉱石、そして高く広がる自然のドームのような天井——。
そして、スライムたちにも変化があった。
光を嫌うように、スライムたちは後退し始めた。
ぷるぷると音を立てながら、影のある方へ移動していく。
中には、明らかに小さくなり始めた個体もいた。表面が乾き始め、体液が蒸発しているようだった。
—「あっ……乾いてる? え、まさか……?」
エリザベスは満面の笑みを浮かべた。
—「ふふっ、まるで干しフルーツじゃん……!」
そう口に出すと、さらに笑いが込み上げてきた。
自分でも何が面白いのかわからなかった。
けれど、そうやって笑えるということが、何よりの強さの証だった。




