世界の夜明け
雪奈は16歳の女子高生で、普通の一日を過ごしていた。ある日突然の地震が彼女の平穏を打ち破った。地震で意識を失い、目を覚ますと見知らぬ緑と青の世界に立っていた。恐怖と混乱の中、現実感を確認しようとするも、不安が胸を締め付けた。
突然、暗闇の中で巨大な黒いオオカミに襲われる。しかし、謎の女性セルナに助けられ、雪奈は命の危機を免れた。セルナと共に安全な場所を目指しながら、未知の冒険が始まる予感に胸が高鳴る。
二日前の出来事が脳裏に浮かんだ。影狼の爪が私の足に食い込み、負傷してしまった後の事だ。
セルナは歩くのが困難な状態だった私の足を見て、心配そうに眉をひそめていた。
「ユキナ、その足大丈夫か?」と言い、セルナは私の足をのぞき込むように見た。
「想像以上にひどいじゃないか」
セルナは心配そうに眉をひそめ、瞳に宿る不安の色がますます濃くなっていった。
彼女の顔には深い憂慮が浮かび、口元は少しだけ引き結ばれている。
「かなり我慢してたけど実は結構痛い……」私が痛みに顔をしかめながら答えた。
その瞬間、影狼の鋭い爪が再び脳裏に浮かび、胸の奥に冷たい恐怖が広がった。
あの時の恐怖と痛みが蘇り、全身が震えるのを感じた。
セルナは少しの間、何かを考えるように視線を遠くに向けた。
セルナは微笑み、「ちょっと待ってろ」と言って、小さなバックから小さな瓶を取り出した。
その小さな瓶には透明な液体が入っており、光にかざすとほのかな青緑色に輝いた。
彼女は慎重に瓶の蓋を開けた。
セルナはいたずらっぽい笑みを浮かべながら、小さな瓶を私に見せた。
「これは、最近質屋で手に入れたポーションだ。
傷が一瞬で治るけど、一日だけ猫耳が生えるってさ。
安全は、まぁ大丈夫だろ」
ポーションという知らない単語と言われた内容に恐怖と戸惑いを覚えた。
だんだん近ずいて来るその液体の色がどこか毒々しく見え、胸の奥に冷たい恐怖が広がり、体が硬直した。
「え、ちょっと待って、それ本当に大丈夫なの?」
セルナは、「いいから、いいから。アタシを信じてみな」と言って、私の足にポーションを塗り始めた。
セルナのポーションを塗る手際が良く、抵抗すらできなかった。
冷たい液体が傷口に沁みわたる感覚があり、まるで毒が体内に広がっていくような恐怖に襲われた。
心臓が早鐘のように打ち始め、全身が震え、息が詰まるような感覚に陥った。
急激に痛みが和らいでいくのを感じた、だがそれ以上の変化を感じる事がなく私は戸惑いを覚えた。
「どうだ?楽になったか?」とセルナが問いかけた。
その顔には、満足げな笑みが浮かんでいた。
私は恐る恐る手を頭に伸ばし、耳が生えていないか何度も確認した。
指先で頭を確認したが、普通の頭のシルエットにしか感じられなかった。
「え、猫耳は生えてないよね?」と不安そうにセルナに尋ねた。
セルナは私の質問に対して、少し笑いながら答えた。
「もちろん生えてないよ。冗談だってば」
次の瞬間、セルナはお腹を抱えて笑い出した。
「ほんとに信じたの?」と彼女の笑い声が森に響き渡った。
私の頬は一瞬にして熱くなり、セルナの笑い声が耳に響くたび、羞恥心が増していくのを感じた。
心臓が早鐘のように打ち、顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。
「もぉ、ほんとに焦ったんだから……!」と、少し怒ったような口調でセルナに言った。
言葉に感情があふれ、内心の戸惑いと恥ずかしさが混じり合った。
しかし、私はセルナに言っておかないといけない言葉がある。
「でも、ありがとセルナ」
セルナは微笑みながら、「ああ。でもこれで少しは歩けるようになるな」と言った。
優しい手が私の肩に触れた、その温もりと心配りが心と傷口に沁みわたり、胸の奥の痛みや恐怖が遠のいていくのを感じた。
その思い出から抜け出し、再び現実に引き戻された。
森の中を歩き続けると、セルナの存在が私を支え続けてくれていることに改めて感謝の気持ちが湧き上がった。
「今は近くの村に向かっているんだよね?」と私は確認するように尋ねた。
セルナは頷いて微笑んだ。
「ああ、そうだ。そしてその村はエルダレイクの水を農業に使ってるから、食べ物が美味いんだよ」
全く知らない地名が出てきた。
もうここまで知らない単語が2つ3つあると地球ではない可能性が非常に大きく、もう家に帰れない気がして心の奥底に痛みが広がった。
その瞬間、雪奈の胸は締め付けられるような不安に覆われた。
頭の中で無数の思考が駆け巡り、現実感が薄れていく感覚に襲われた。
セルナには影狼で命を助けてもらい、ポーションを塗ってもらい、こうして今も魔物から守られながら村に向かっている。
それ以上彼女に負担をかけたくない。
私は心の奥底に苦しみを押し込み、精一杯の笑顔をセルナに向けてみせた。
すると、セルナは雪奈の顔をじっと見つめ、その瞳の奥に隠された感情を探るように視線を送った。
雪奈は微笑みながらも、その手は軽く震えていた。
セルナの視線が雪奈の目を捉え、まるで心の奥底まで見透かすかのように感じられた。
「ユキナ、何か悩んでるのか?」その笑顔の裏にある感情を彼女は見逃してくれなかった。
セルナが私の感情を見抜いてきたことに私は驚きを隠せなかった。
また、その質問を正直に話すことで彼女に負担をかけたくないという思いと、今の自分の現状を把握するためにも話しておいたほうが良いという考えが交錯していた。
セルナは静かに見守り、言葉を待っていてくれた。迷いが続く中、私は意を決して話し始めた。
「この世界じゃないところから私は来た……と思う」その言葉を発した後、胸の奥で締め付けられるような感覚が和らいだような、よく分からない感覚に襲われた。
セルナは一瞬だけ目を細めたが、すぐに柔らかな笑顔を浮かべた。
「そうか、だから少し反応が変だったんだな」彼女の声は変わらない優しさを含んでいた。
「ここは一体どこなの?」私は未知の世界に放り込まれたという恐怖と、家に帰れないかもしれないという焦燥感が胸の中で渦を巻いて膨れ上がっていった。
わたしは感情に耐えきれず思わず声を震わせながら叫んだ。
「どこなのここは!? ここはどこなの!? セルナ!教えてよ、お願い、教えて…!」
心臓が激しく鼓動し、不安と恐怖が言葉となって溢れ出した。周囲の状況が掴めない不安が、私の中でさらなる焦りを引き起こしていた。 周囲の状況を掴めない不安が、言葉となって溢れ出してしまった。
セルナは一瞬言葉に詰まったが、次の瞬間には普段の落ち着いた声に戻った。
「ユキナ、落ち着けよ。深呼吸してみな。焦っても何も良いことねぇからさ」
セルナの声はまるで心を包み込むような穏やかさで、私はその言葉に一瞬ハッとした。
彼女の言葉に従い、深呼吸をした。心臓の鼓動がゆっくりと落ち着いていくのを感じた。
それでも焦りは完全には消えず、微かな不安が胸の奥に残っていたが、セルナの冷静さと優しさに支えられて、前を見据える力を得られた気がした。
セルナは私が落ち着きを取り戻しつつあるのを見て、一息ついた。
そして、普段通りの穏やかな声で話し始めた。
「よし、落ち着いたみたいだな。じゃあ、紹介してやるよ」
彼女は手を大きく伸ばし、まるで国全体を包み込むように腕を広げると、続けて語り始めた。
「ようこそユキナ。ここは広大な平野と森に囲まれた豊かな国、『ミッドガルド』だ」
広大な平野には黄金色の麦畑が広がり、その背後には緑深い森がそびえている。
風が吹き抜けるたびに、木々の葉がざわめき、大地の恵みが目の前に広がっていた。
「この国の名前はミッドガルドなのね」私は、自分の置かれた状況を少しでも理解しようと必死だった。
「そうさ、この国の名前はミッドガルドだ」セルナは花が開いたように笑って見せた。
「私がセルナと出会った場所はなんて名前なの?」
影狼に襲われた情景が頭に過ぎった。心臓が破裂しそうな勢いで鼓動し恐怖したことを。
「再生の森って名前だ」
セルナが影狼から私を助けてくれた情景が頭に浮かんだ。
セルナが助けてくれた瞬間、私は胸に込み上げる安堵と感謝の気持ちでいっぱいになっていたことを。
「じゃぁ、最初に言っていたエルダレイクっていうのは何?」
「この国の心臓でありシンボルでもある大きな湖のことだ。ここの水を使う畑の野菜はみんな美味しいんだ」
セルナは説明しながら、自然と微笑みを浮かべた。
そしてセルナは西の方向を指さし、「そしてあっちがこれから目指す『エルドラフト村』だ。食べ物が美味いんだよ」
このような質問がいくばかりか続いた。質問が終わったのを境に私達はエルドラフトに向かうことを再開した。
しばらく平地を歩いていると突如セルナが「お!」という言葉と共に微笑みが浮かび始めた。
「セルナどうしたの?」と私は首を傾げ聞いてみた。
「ちょうどいい魔物がいるんだ。しばらくしたらユキナにも見えるはずさ」
私は目を凝らしてみたが、何の変哲もない広大な平地が広がるばかりだった。
焦る気持ちを抑えつつ、改めて周囲を見渡した。草原が一面に広がり、風がそよぐたびに緑の波が揺れ動く。
新鮮な緑の香りが鼻孔をくすぐり、時折甘い野花の香りが混じる。
風が草原を渡る音や野鳥のさえずりが耳に心地よく響き、草を踏む自分たちの足音が静かな平地に広がっていく。
ここまで見ても何も分からなかったので、セルナについて行くことにした。
セルナの頼もしい姿に、少しずつ未知の存在への恐怖が和らいでいく。
しばらく歩いていると、前方に青い塊が動いているのが見えた。
その塊は直径約三十センチほどの半透明なゼリー状の物体で、全体が青く輝いていた。
光が当たると、その表面がきらめき、内部の構造がわずかに見える。
中には小さな気泡が漂い、まるで生きているかのように揺れていた。
「こいつはスライムだ」セルナがそう言うと、私は思わず後ずさりした。
初めて見る生物に驚きと好奇心が交じり、胸が高鳴った。
スライムはゆっくりと跳ねるようにして移動していた。
その動きは柔らかく、まるで水の中を泳ぐような滑らかさだった。
動くたびに、スライムの体がわずかに変形し、形を自在に変えることができるようだ。
「このスライム?の何がちょうどいいの?食べてもお腹は膨れなさそうだよ」私は首を傾げ、スライムを観察しながら尋ねた。
セルナは少し微笑みながら答えた。
「あはは、こいつらは食べても美味くねぇよ。コイツらの体液はポーション作りに欠かせないんだ。ほら、近くで見てみな」
爽快に笑う彼女の指示に従い、私はスライムにもう一歩近づいた。
「ゼリー状の体の中にある成分をポーションにすると、治癒力を引き出してくれるんだ」
セルナの説明を聞きながら、私はスライムの不思議な動きをじっと観察した。
「そのモンスターを売ってお金にするってこと?」私は再び首をかしげた。
「その目的もあるけど、今回は戦いを教えるのに最適だと思ってさ」
そう言ってセルナは私に短剣を渡してきた。
私は戸惑いながら短剣を手にした。その瞬間、冷たく重みのある感触に一瞬驚いた。
剣に触れたことすらなかった私は、その重みと持ち方に戸惑いを感じた。
「それじゃユキナ、これから剣の使い方を教えるから覚えておけ」
とセルナは穏やかな声で言った。彼女は私の手を取り、短剣の正しい持ち方を教えてくれた。
「まずは手首をリラックスさせな。力を入れすぎると、逆に動きが鈍くなるんだよ。こんな感じで、軽く握ってみな」
セルナの手が私の手の上に重なり、その温もりが少しだけ緊張を和らげてくれた。
試しに剣を振ってみると、思ったよりも重く感じ、「う、うまく振れない……」私は恥ずかしそうに呟いた。
セルナは異変にすぐに気づき、「少し腕が硬くなってるみたいだな。大丈夫、最初はみんなそんなもんさ。リラックスして、もう一度やってみな」と指摘した。
もう一度剣を振ってみたが、今度はバランスを崩してしまった。
剣を振り下ろす瞬間に足元がふらつき、重心が定まらずに体がよろけた。
足元の草が踏みつぶされ、体が左右に揺れ動く。
手に持った剣がぶれ、予期せぬ方向へと振り下ろされた。
心臓がドキドキと高鳴り、冷や汗が額ににじむ。
「今度は足元を直そうか。肩幅くらいに足を開いて、体重を均等にかけるんだ。そうするとバランスが取りやすくなるんだ」
セルナの指示に従って、再び短剣を握りしめた。
そして、彼女の動きを見ながらもう一度剣を振ってみる。
今度は少しだけうまくいった気がした。
セルナが首をかしげながら言った。
「手首がまだ少し硬いみたいだな。それに、剣先がぶれてる。手首をもっと柔らかく使うと、もっとスムーズに動かせるようになるんだ」
彼女は私の手首を軽く握り、正しい動きを示してくれた。
セルナの手の動きを見ながら、私は再び剣を振ってみた。今度も少しうまくいった気がした。
「ユキナ、いい感じになってきたな!あと、呼吸も大事だ。剣を振り下ろす時には、息を吐きながら行うと力が入りやすくなるんだ。
さぁ、もう一度やってみな」
セルナの指導に従い、私は呼吸を意識しながら再び剣を振った。
息を吐きながら剣を振り下ろすと、力が入りやすくなり、動きもスムーズになった気がした。
セルナは満足そうに頷き、「いい感じだよ、ユキナ。手首を柔らかく使いながら、バランスも意識してな。次は左右に振ってみようか」と言った。
次の課題に挑む前に、セルナはもう一度私の姿勢を確認し、体重のかけ方や手首の使い方を調整してくれた。
問題を1つ1つ丁寧に修正してくれる姿勢が、私にとってとても頼もしく感じられた。
その後何度も剣を振る練習をし私は少し剣を振ることに少し自信を持てた。
「よし、ユキナ。今度はその動きを忘れずにスライムを倒してみようか」セルナが言った。
私は一瞬、足がすくんだ。命を奪うことに対する恐怖が胸に広がった。
スライムとはいえ、生き物を殺すという行為に対する罪悪感が押し寄せてきた。
「でも、命を奪うなんて……」私は声を震わせながら言った。
セルナの手が私の肩に触れた。
肩から伝わるその温かさは私の心にゆっくりと広がった。
「そのスライムを持ち帰れば、その素材を待っている人たちがいるんだ。それに私たちはお金が必要だ」セルナは優しい表情で言った。
私はセルナの言葉を聞きながら、自分の中で戦っていた。
スライムを倒さなければならない理由は理解出来たが、その行為に対する抵抗感が強く、心の中で葛藤が生まれた。
「それでも、私はできないよ!」私の声は震えながらも強く響いた。
「この子達の命を奪うことがどれだけ恐ろしいことか、セルナには分かる?幸せかもしれない今を奪ってしまうことの恐ろしさを」
私は涙をこらえきれずに叫んだ。
セルナは一瞬黙り込んだ後、深い息をついた。
彼女の瞳には一瞬の迷いが見えたが、それでも決意を固めるように口を開いた。
「ユキナ、それでもだ。それでもこの世界で生きるためには、戦うことは避けられない。
もちろん今直面する困難な壁に目を背けることで、恐怖や苦しみからは解放されるだろう、
その瞬間は安堵を感じることができるかもしれない。
けど、そんなことを繰り返しているだけでは何も変わらないどころか、未来さえ失ってしまう。
自分の足で立ち向かい、勇気が必要なんだ。
幸せを手に入れるためにはな」とセルナは決然と語りかけた。
セルナの言葉が私の心に深く響いた。
彼女の言葉には、不思議な説得力があった。
その言葉が、まるで真実を帯びているかのように感じた。
セルナの眼差しには揺るぎない確信が込められており、その瞳の奥に宿る強い意志が、私に勇気を与えてくれるようだった。
しかし、その瞳の奥には一瞬だけ、暗い影が揺れているのを感じた。
悲しみと決意が混じり合ったその表情は、彼女が背負っている過去の重さを物語っていた。
「それにアタシも小さい頃妹を失ったんだ。
助ける力も勇気も無かったからな。
だから命を奪われる気持ちは分かるよ」
セルナの表情は一瞬曇り、瞳には深い悲しみが宿っていた。
その悲しみは一瞬で消えたが、言葉に込められた切実な思いが私の胸に響いた。
それでも、私はまだすぐには決心がつかなかった。
命を奪うという行為に対する恐怖が胸を締め付けた。
風が少し強くなり、木々の葉のざわめく音が耳に入った。
私の心は揺れ動いていたが、セルナの言葉と優しさが少しずつ私の心を溶かしていた。
しばらく立ち、決意が徐々に固まってきたが、恐怖もまた消え去らなかった。
短剣を握りしめ、スライムに向かって一歩踏み出したが、手の震えが止まらなかった。
それでも、心の中で自分に言い聞かせ一歩一歩踏みしめるように歩いた。
「勇気を持つんだ、わたし!」と自分に言い聞かせながら、セルナの背中を思い浮かべた。
彼女の頼もしい姿が、私にとっての目標となっていた。
これまで何もできず、ただ甘えてばかりだった自分を恥じ、セルナのように強くありたいと強く願った。
スライムに近づくたび、心臓の鼓動が速くなり、手の震えが増していく。
しかし、セルナの温かい手の感触と優しい微笑みを思い出し、少しずつ恐怖が和らいでいった。
「セルナのように強くなりたい……」その思いが私の胸に広がり、決意が固まった。
短剣をしっかりと握りしめ、スライムに向かって最後の一歩を踏み出した。
短剣をしっかりと握りしめ、冷たい金属の感触が手のひらに伝わる。
その一歩一歩がまるで重い鎖を引きずるような気持ちだったが、心の中でセルナの言葉を繰り返し、自分を奮い立たせた。
そして、スライムに向かって最後の一歩を踏み出した。
ユキナの運命がいよいよ動き出そうとしていた。
読んでくださる読者の皆様お読みになってくださりありがとうございます。
初めての小説執筆になりますのでまだ拙い文章ではございますが皆様の心に訴えかけられる物語を雪奈とセルナ達と共に作っていけたら幸いです。