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仕事は大変


「こんにちは、本日はどういったご用件でしょうか?」

「あ、あの、11時に営業のお約束をさせていただいてる高橋と申します」


今更になるが男の名は高橋 直也、30歳になったばかりの営業マンである。


「はい、高橋様ですね、窺っております、少々お待ちください」

「は、はい」


予定にあった会社を訪問し、受付で要件を告げる。

目の前の受付嬢の横には童貞とよく似た生物が座っていた。


「お!目の前の娘は処女みたいだな」


童貞があっけらかんと言うのを手で制する。


「シー!」

「お前以外には聞こえてないって、心配すんなよ」

「……?」

「あ、いや、あ、あはは」


目の前の受付嬢に訝しげな目で見られ、男はいかにも慣れていない不格好な作り笑いを浮かべる事しかできなかった。


応接室に通され、自社の製品を売り込む。

しかし男の歯切れの悪い説明は相手に響かない。

自分自身に原因があるのはわかっているが、改善もできない自身に苛立ちさえ覚えてしま

う。


「検討はしてみるが今回は見送らせてくれ」


相手からそう告げられ、男はいつものように肩を落とし応接室を背にする。


「残念だったな」

「まぁこんなもんだよ、いつもの事さ」

「確かにいつもの事だ」


エレベーターの中で2人は一息つく。


「そういやひとつ気になったんだけど」

「何?」

「お前はそのへんにいる童貞とか処女の化身とは会話しないのか?」

「いや、普通に会話くらいするぞ」

「そうなの?」

「ただほら、オレ達は主人っつーか本体のお前から離れられないからな」

「あ、そういや5mくらいしか離れられないんだっけ」

「だから基本的に皆が本体に合わせてるからタイミングがね」

「なるほどなぁ…」


うーん…と男は頭を捻る。


「どうした?」

「もし話したい奴とかいたら言ってくれよ?俺できるだけそいつの近くにいるようにするから」

「は?い…いいよ!なんでお前がオレに合わすのよ!?」

「え?だって不公平だろ」

「いや…でもさ!」

「他には何か食べたいもんとか…行きたい場所とかか、まぁ無理なのは無理って言うけどさ」


そこでチーンという音とともにエレベーターが1階に到着した。


「今日はどうでした?」

「うぇっ!?」


いつものようにペコリと会釈だけして去ろうとした男に、いつもとは違う声がかかる。


「契約、取れました?」


受付嬢はニコっと人懐っこい笑顔を浮かべ

男にとって少々残酷な質問を投げかける。


「あ、いや、あの、ちょっと…駄目だったみたいで…あの」

「そうでしたか…すいません余計な事」

「あ!いや!そんな!!謝るような事じゃなくて!!」

「でも…頑張ってくださいね…あ、これよかったらどうぞ」


そう言ってまたニコリと優しく微笑むと、ポケットから飴玉を取り出して手渡してくれる。


「え、あ…」

「疲れてる時は甘い物ですよ、でも私から貰ったのは内緒でお願いします」

「あ、ありがとうございます」


照れくさくなった男はそのまま早足で訪問先を後にした。


「ありゃ惚れてるな」

「は?」


近くの公園で缶コーヒーのプルトップを開けたところで童貞が男に話しかける。


「さっきの受付の娘だよ!ありゃお前にホの字だな!」

「馬鹿言ってんなよ、そんなわけないだろ…あとホの字って古いんだよ」


童貞の発言を笑い飛ばしてコーヒーを一口飲み下す。


「何度もあそこで断られてるからな…同情されただけだろ」

「いやいや…あの笑顔は惚れてるよ!」

「童貞の妄想も程々にしろって…」

「童貞はお前だろうが!」

「お前なんか童貞そのものじゃねーか!」

「うるせぇー!!」


ひとしきり悪口の応酬を繰り返した所で、周りの人間の危険人物を見るような視線に気付く。


「あ、えへへ…その…へへへ」

「ダッサ!!!ダッサ!!!!」

「くそっ!次だ!!次の会社行くぞ!」

「おうよ!その意気だ!!次は契約取るぞ!!」


グイッと残りのコーヒーを飲みほし、男は歩き出した。




「で?今日もまた駄目だった?」

「いえ…今日は1件ですが…新規の契約を取れまして…」

「は?」


年下の上司が見たこともないような表情を浮かべる。

その横で童貞が上司に向かって決して当たらないパンチを何度も繰り出していた。


「…1件くらい当たり前なんだけどね…下がっていいよ」

「はい、失礼します」

「ダッサ!ダッサ!!おら上司!!かかってこいや!!」


終業と共に男が口を開く。


「家で祝杯だ!!」


展開は早いと思います

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