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おやすみ


「は?ど…童貞って?」

「童貞は童貞だよ」

「あの性行為をしてない男の総称の?」

「そうそう、その童貞」


男は言葉を失う。


「まぁいきなりだから混乱するのは分かるけどさ…オレだって正直混乱してるし…でも一応生まれてから今までずっと一緒にいたんだぞ、お前は見えてなかったけど」

「な…?は…?何かのドッキリか?ずっと一緒にいたって…」

「オレも正直驚いてるよ、何でいきなり見えるようになったのよ?」

「冗談だろ?」

「冗談じゃなくてさ」


目をゴシゴシと擦ってみるも、目の前の童貞と名乗る謎の物体が消えることは無かった。


「うん、寝よう、疲れてんだきっと…」

「なんでだろうなぁ…あ!」


童貞が何か閃いたようにポンと手を打つ。


「…な…なんだよ?」

「あれじゃね?30歳になったから!魔法使いになって見えるようになったんじゃね?」

「馬鹿言うなよ…そんな話聞いたこともない」


男は言ったものの、これほど現実離れした生物を目の当たりにすると、他に理由らしい理由も浮かばないのが現実だった。


「…確認するぞ?」

「どうぞ」

「お前は俺の童貞…の化身みたいなもんなんだな?」

「化身?ああ!そうだな!そんな感じだ!」「んでお前も何でこうなったか分からないんだな?」

「そうそう、オレは普段と違った行動とかもしてないから…誕生日説が有力だと思うんだけどなぁ…」


腕組みをしながら、首を傾げているそいつに続けて質問をぶつける。


「生まれた時から俺とずっと一緒にいるって…?」

「そりゃそうさ、生まれた時から今までお前は童貞なんだから」

「うぐ…まぁそうなんだが…」

「証拠になるかわかんないけども…」

「なんだよ?」

「初恋は小学校4年の時の同級生の子で、放課後コッソリと女の子の後をつけて家を突き止めてたよな」

「なっ!な…なんでその事を!!!」


動揺を隠せない男に向かって童貞はなおも続ける。


「中学2年の時は思春期真っ只中って感じで、好きな子と付き合った時のシミュレーションをノートにビッチリ書き込んでたよな」

「はうぁ!!!」

「いくら好きだったからって靴箱の匂いを嗅ぐのはどうかと思ったよオレは」

「もういい!!!もうわかったから!!!やめて!!!!」

「オレが見てて気の毒すぎて泣きそうになったのは高校1年の夏休みだな…ナンパで脱童貞しようとしたお前が海で…」

「よし!そこまで!!信じた!!お前が俺とずっと一緒にいたのは信じたから!!」


男の反応を見て童貞は嬉しそうに肩を揺らす。


「…はぁ…一気に疲れた……明日も仕事なのに何やってんだ…俺は」

「ふひひ、でもいいもんだなって話せるのって!」

「そうか?…でもまぁ…うん…そうだな」


実際、男が感情を出して誰かと会話をしたのはいつぶりだっただろうか。

奇妙なむず痒さを感じながらも、男はスマホの目覚まし機能をONにする。


「色々と疑問は尽きないんだけども…明日も仕事だからさ、今日は寝ないか?」

「そうだなー!夜更かしは身体に良くないからな!」

「なんかお前俺に似てるよな、話し方とか」

「そりゃそうだろ、ずーーっと一緒にいるんだから、影響されるのも仕方無い」

「そういうもんかね」

「そういうもんだろ、さ、寝るべ寝るべ」


電気を消し、寝床に入るとあっという間に眠気が襲ってくる。

男が思っていた以上に精神的に疲労してしまったようだった。

ちゃっかり隣で寝ている童貞に思わず笑みが溢れてしまう。


「魔法か………燃え盛れ!闇の炎よ!!」


寝転がりながら天井に向かって手を広げてみるも、返ってくるのは静寂だけであった。


「……何やってんの?」

「うるせえ」


横から可哀想な物を見る目で見られ、男は頭まで布団をかぶる。


「…おやすみ」

「おぉ!おやすみ!」


男は思う。

最後におやすみと言ったのはいつだったかと。

もう何年も帰っていない実家で母親に言ったのが最後だったかなと。

力無く笑いながら睡魔に身を任せた。


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