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ハーゲット領の息子④

そして彼女は涙ながらに語ってくれた。

ここにいるメイドは全てカルロスがオークションで買ったものであること。

異常な小児性愛者で、毎晩メイドは彼に乱暴に犯されている事。

そしてそのことを他言した場合は殺すと脅されている事。


「ずっと、ずっと言えなくて…。怖くて…。」

「そう…。それは辛かったわね…。」


彼女を抱きしめた。


これは使えるな。


―――


「な、なんですかこれ?」

「これは私が知り合いから貰った記憶の種よ―」


アイリスにもこれを育てるように助言した。

そして、カルロスの悪事の記憶を種に込め、開花させるように言った。

もちろん花冠のことも。

それをカルロスに被せ、自分が受けた仕打ちを彼にも追体験させろと言った。

これは復讐だと。


そして、延期された彼女の当番の日に


「僕、絶対にアイリスを幸せにするから。」


彼女は体験したはずだ。彼の幸せな記憶を。

そして自覚したはずだ。醜く汚れた自分の人生を。

こうなればあとは一押しだ。


「なぜ自分だけがこんなにも辛いんだろうねぇアイリス。同い年のウィリーはあんなにも幸せなのに。羨ましいなぁ妬ましいなぁ不幸だなぁ。生い立ちが違うだけでなぜこうも違うんだろう? これをカルロスに被せたとして何になる? 彼は心を入れ替えると思う? 私は思わないなぁ。その復讐には何の意味があるのかな。ならいっそ通報する? そんなことしたらここの領民はどうなるかな? ウィリーだって金のために売り飛ばされるかもしれない。ではこのままこの人生を歩む? カルロスに犯された醜い体でウィリーを愛せるかしら?」

「あぁ、あっぁ…あ、ぅうう」


頭を抱え嗚咽しながら、いや、ほとんど嘔吐と呼んでいいくらいだった。

そして彼女の耳元で囁いた。


「逃げてもいいのよ?」



「私はてっきり屋敷から逃げ出すと思ったんだけどなぁ」


ニヤつきながら言うテネシア。

普通の人間だったら逃げ出せばいいと思うかもしれない。

が、あの屋敷とカルロスの言う事が全ての彼女にとってそんな選択肢は無いも同然。

それに彼女はまだ9歳。洗脳に近いだろうな。


「………。最低だなお前。」

「ふっ、お互い様ね。私は知ってるわよ。」

「何が?」


わざとらしくとぼけてみる。まあ、何のことかは検討が付いているんだが。


「私のシナリオはアイリスが自害することろまで。カルロスの死については知らないわ。それと彼女は花冠を作ってない。」

「へえ?」

「あんたでしょあれ作ったの。あんなところに置いたらウィリーが被ってしまうわ」

「………それは悲運だな。」


こいつとはそれなりの付き合いだから、気を利かしたつもりだったんだが。


「じゃあ、彼女にも花を育てさせた理由は?」

「『復讐可能かもしれない』と彼女に思わせるためよ? 見出した希望をいとも簡単に打ち砕く方が不幸でしょう?」

「………そういうことにしとく。」


毎回計画が終わった後はこうやって振り返りをしている。


「それにしてもカルロス・ハーゲット。狡猾な男。領民からの信頼やメイドへの洗脳を見るに、相当人心掌握に長けているのね。それに、アイリスは知らなかったようだけど、恐らく13歳の成人後にまた即オークションに売られるんでしょうね。」

「え、そうなのか」


そんなことは誰も言って無かったはずだが。


「屋敷には不可解なくらい成人女性が居なかった。13歳になったからと言って即解放したら自分の悪事がバレる。かと言って彼のことよ。ただ殺すだけとは思えない。おそらく、比較的奴隷価値の低い少女を買って散々消費して、奴隷価値の上がる成人後に即売って利益を出すのよ。金にも抜け目ないわね。」

「ふーん、結局どう転んでも彼女は不幸になる運命だったんだな。」


別に俺たちは正義のヒーローじゃない。

彼が裏でどんな非道な行いをしていようがどうでもいい。


「はあ…。ウィリーの幸せを体験なんかしなければな~」

「そうね。でも一度体験してしまったらもう戻れないわ。」


恐らく彼女は彼女で、あの生活に不満や恐怖はあったものの許容範囲だったんだ。

オークションで売れなければ即処分。

買われたとしても今よりも非人道的な扱いをするところは山のようにある。

あそこでの生活は彼女にとって、『まあいっか』と思えていたはず。

でも、彼の幸せを体験してしまった。

そして相対的に自分がどれだけ不幸なのかを思い知ってしまった。


「結局、一番幸せなのは無知なことだな」


ウィリーはいい子だったし、できるならこんな結末にはしたく無かったけど。


「でも今回は良い収穫だったよ。」


記事によると、発見された遺体はカルロスのものだけだったようだ。

膨れたバッグを膝の上に置き、それを叩いてテネシアに言った。


「俺はお前と違って保存食という概念があるからな。」

「それは羨ましいわね。私はできたてのものしか喰えないもの」

「高級舌が」


他愛もなく笑いあう二人。


「でも、善意と愛が凶器とはね」

「なあ、こんな回りくどいやり方しなくても良くないか?」

「良くない。言ったでしょ。天然モノが好きって。トリガーは当事者に引かせるのがモットーなの。例え弾薬を詰めたのが私でもね。」

「謎のこだわり」


ソルはテネシアに向かって冷ややかな目線と共に告げた。


「それにしても、シャーデンフロイデは久々に食べたわ…。」

「なにそれ」

「人の不幸を喜ぶ快い感情のこと。」

「そんなものまで喰えるのか…。」

「ええ」


初めて聞いた単語だ。


「ウィリーのものかしら?いや、ここまで濃いものは…」

「………」

「………」


やだ、霊的~。


「なんか私達呪われそうね。」

「それならもうとっくに呪われてると思うけどな。」

「それもそうね」

「ちなみに不幸ってどんな味がするんだ?」

「ふふっ、他人の不幸は蜜の味よ」

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