ハーゲット領の息子②
翌日早速ソルと一緒に植えた。
込めた思い出は色々。
尊敬する父と遊んだ記憶や、領民の温かい笑顔。
その他にもいろんな楽しい記憶を種に込めた。
「早く咲くといいなぁ」
それから一週間僕はこの花につきっきりだった。
ソルとテネシアはしばらくここに滞在することになったらしい。
僕としては遊び相手がいるのはうれしいので大歓迎だった。
「そういえば、ウィリーはお母さんはいないの?」
「うん、僕を生んですぐに死んじゃったんだって。だからあんまり覚えてないんだ。」
「そっか」
そして変わったことが一つ。アイリスはテネシアとよく喋るようになった。
やはり年の近い女性同士仲が良くなるのは当たり前なんだろうか。
何故か少し悔しかった。
そして一週間後、
「!」
「ほ~、これまた綺麗に咲いたな~」
僕の植えた種はものの見事に咲いていた。
それらは目を見張るほど綺麗な色をしていた。
花弁は赤やオレンジ、黄色などの暖色系がほとんど。
「す、すごいほんとに咲いた…」
「いやぁ、咲いて良かったよ。計画が台無しになるとこだった」
「ほんとですよ…」
雨降ったときはどうなると思った事やら…
よし、これで花冠を作ろう。それをアイリスにプレゼントするんだ。
僕はすぐに花冠の制作に取り掛かった。
手先が器用じゃない分すごく苦労したが。
―――
そして夜。僕はアイリスの部屋に向かった。
彼女の部屋のドアをコンコンとノックした。
「ア、アイリス今いいかな…?」
「え、あ、はい。」
ガチャと扉が開く。
そこにいたのは就寝前のアイリスだった。
いつもと違う寝間着姿に少し興奮してしまった。
「どうしましたか?こんな夜更けに…」
「あ、あえっと少し話したくて…」
女の子特有の甘い香りが部屋からする。
「え、ええ。分かりました。とりあえず、どうぞ入ってください。」
アイリスは戸惑いながら部屋に上がらせてくれた。
「………」
「………」
2人並んで姿勢よく正座をしている。
いつも普通に話が出来ているのに、なんでか言葉が出てこない。
何か話題を探すために、ふと目線を部屋に迎えると窓際にいくつか植木鉢が置いてあった。
「あ、アイリスも植物育ててるんだ?」
「え、ああ、最近育て始めまして…」
「そ、そうなんだ。僕も最近花を育て始めてさ。」
「そうなんですか」
よし、話題が花にいった。あげるならこのタイミングだ。
そして僕は後ろに隠していた花冠を彼女の前に出した。
「こ、これ。僕が育てた花で作ったやつなんだ。」
「………綺麗ですね。」
「そ、そう。これ君にあげるよ」
「え、い、頂けません! ウィリー様からこのようなもの…」
「いいから!日頃の感謝の気持ちだよ。受け取って」
半ば強引に彼女に渡した。
「これ被ってみてよ。」
僕は彼女に花冠を被るよう促した。
「はい。こう…ですか?」
花冠を被った瞬間、彼女は目に大粒の涙を浮かべていた。
僕にとっては一瞬だったけど、きっと彼女には長い時間に感じただろう。
僕も涙を流す彼女を見て泣いた。そして彼女を抱き寄せた。
「僕、絶対にアイリスを幸せにするから。」
でも大粒の涙があふれる彼女の眼は、何故か虚ろな目をしているように見えた。
―――
それから二日後。
あれ以降花を育てるのにハマってしまい、ガーデニングが趣味になりそうだった。
アイリスも自室で花を育ててたし、一緒に花壇とか作って二人で作業出来たら幸せだろうなぁ。
そんなことを思いながら僕は彼女の自室に向かった。
軋む床板の音に気も向けず、気分良く廊下を歩く。
そして彼女の部屋の前につくと、ノックをした。
「アイリス!またなんかお話しよー!」
返事がない。どうしてだろう。
「アイリス?」
しばらく待っても何の返事もない。なんだか心配になって来た。
意を決して
「あ、開けるよ…?」
僕はゆっくりとドアノブに手を掛けた。
何故か息を潜めて、静かにドアを開ける。
月光が窓から差し込み、部屋の中を青白く照らしていた。
その光の中に、一つの影が浮かび上がる。
シルエットは驚くほど鮮明で、現実離れした光景に目を疑った。
宙に何かが漂っている。
細い線―恐らくロープか紐のようなものが天井から垂れ下がり、その先端に得体の知れない物体が括り付けられていた。
「なにこれ?」
僕は呟いた。
好奇心と不安が入り混じる中、足が勝手に動き出す。
その得体の知れない物体に、一歩、また一歩と近づいていく。意を決して
ガサッっと何かが足にぶつかった。拾い上げると、寒色の美しい花冠。
それをとにかく拾い上げ、再度その物体に近づいていく。
月の光が少しずつその表面を照らし出す。輪郭が見えてきた。
そして、ある特徴的な形が目に入った瞬間、僕の体が凍りついた。
「アイリス…?」
②です。不穏な空気になってきた…というかなってますね
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