ハーゲット領の息子①
ここはライル帝国ハーゲット領。今日も平和です。
僕の名前はウィリー・ハーゲット。名前の通りここの領主の息子だ。
実は、僕には最近気になってる娘がいる。
それはここにいる僕のそば付きメイドのアイリス。僕と同い年の九歳の女の子だ。
彼女はいつも本当に良くしてくれる。
食事の準備も洗濯も身の回りのお世話も全て彼女に頼り切り。
最近、悪夢でおねしょをしてしまった際にも手を煩わせてしまった。
本当に不甲斐ない。
だから早くひとり立ちして、彼女の負担を軽くしてあげたい。
そして、普段笑わない彼女をたくさん笑わせて幸せにしてあげたい。
そんなことを思っていると、外から玄関の扉が開く音がした。おそらく父だ。
ダイニングから飛び出し僕は玄関に向かった。
「お待ちください!ウィリー様!」
勢いよく部屋を飛び出た僕を追うように彼女も出てくる。
「おかえりなさい!お父様!」
元気よく声を張り上げた。しかし、入って来たのは
「お、この子が息子さんですか?」
知らない青年が見えた。15,6歳に見える。誰だろう。
綺麗な白髪に、透き通るような翡翠色の瞳。肌もまるで陶器のように白い。
アルビノってやつなのかな?
そんなことを考えていると、彼に肩を貸してもらっている父の姿が見えてきた。
「ああ、ただいまウィリー。少し腰をやってしまってね。」
どうやらこの人は、腰を痛めた父を家まで連れてきてくれたようだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
心配なので、思わず大きな声を出してしまった。しかし、返って来たのは見知らぬ女の人の声。
「心配は無いわ。私の見立てによるとただのぎっくり腰。」
もう一人いた。その見た目で種族がすぐに分かった。長耳族だ。
こちらも15.6歳くらいに見える。
でも、エルフには似ても似つかない焼けた小麦色の肌。
赤い瞳で髪は紫色をしており、『高潔』と『正義』を信条とする長耳族にはとても見えなかった。
「ああ、もう歳かな…。挨拶回りも領主としての務めなんだが…。」
「確かにここの長である以上は、それが責務ね。」
そんなやり取りをしながら、二人は父をとりあえず玄関にそっと座らせた。
「いやぁお二方。本当にありがとう。」
「いえ、困ってたので。」
「本当に苦労をかけたね。」
父は二人を見上げる形で礼を言った。父は尊敬できる人だ。
ここの領民は皆父を慕い、父も領民のために身を粉にして働いている。
ここが平和なのも父のおかげなんだ。僕も将来、父のような人間になりたい。
そう思って、日ごろの稽古も頑張っている。
「お二人は旅人か何かかな?」
「ええ、私達は二人で旅をしているの。」
父が二人に優しく聞いた。
「では、今日泊まる宿はもう決めているのかい?」
「いえ、まだですが…」
「なら、うちを使うといい。助けてくれた礼だ。幸いうちは広いし、空き部屋も多くある。食事も提供するよ。」
「いえ、そんなにしてもらうわけには―」
「悪くないわ。案内して。」
エルフの女性は青年の言葉をさえぎって、家の中に入って来た。
それに続いてアイリスが付いていき、この屋敷の案内を彼女に始めた。
すると、父がアイリスに向かって声を大きくして
「アイリス! 今日はお前の当番だからな。準備しておきなさい。」
「………はい。承知しました。」
―――
その日はすぐに夕食の時間になった。
彼はソル。彼女はテネシアと言うそうだ。
「ご馳走してもらってありがとうございます。」
「いやいや、助けて貰ったのだからこれくらい当たり前だよ。」
「恐縮です。」
うちでは毎日豪華な食事が出る。その理由は父が食にうるさいためだ。
うちには領民からのご厚意で、毎月多くの食料が送られる。
これも父の人徳のおかげなのだろう。
「ん、美味い!」
「悪くない。」
「はは、お口に合って何よりです。お二方は何か食へのこだわりはあるのですか?」
グルメな父は、肉をナイフで切りながら彼らに聞いた。
すると彼らは手を止め、
「私は養殖よりも天然モノが好き…かな。」
「ほお、それは家畜ではなく野生の、ということですな?」
「………まあ、そういうこと。」
「ソルさんは?」
「熟成してる方が好きですね。時間がたてば経つほど良い。」
「なるほど。」
他愛もない会話をしている。
正直僕はまだこの二人と一言も声を交わしていない。
いきなり家に転がりこんで来た人と仲良く出来るほど僕はまだできた人間じゃない。
だって九歳だもん。
―――
ご飯を食べ終わり、廊下を歩いていると洗い場にアイリスの姿が見えた。
ああそっか、今日の当番はアイリスか。
今日も綺麗だ…!!
のぞき見のような形になってしまった。なぜか悪いことをしている気分だ。
「なにしてるの?」
「ひゃっ!」
後ろから声をかけられた。ソルだ。
「ん、あの子がどうかしたの?」
覗いているのがバレた。自分でもわかるほど顔を真っ赤にした。
「あー、もしかしてあのメイドの子が好きなの?」
「い、いや別に」
こんなよく分からない旅人にこのことを知られるのは正直かなり嫌だ。
「え、そうなんだ~」
軽い口調で僕をからかうソル。
「そういうのじゃないです」
「ふーん、人生の先輩としてアドバイスあげようと思ったのにな~?」
「え?」
いかん、つい反応してしまった。
確かに彼は凄く整った顔立ちをしているし、モテるのだろう。
意外と彼のアドバイスはためになるかもしれない。
「聞いとく?」
ニヤッと笑って僕の顔を覗き込んできた。
―――
「そっか。ウィリーと同い年なのにここに籠りっきりじゃ可哀そうだね。」
彼がこの家に来てから2日。警戒心は消えすっかり彼と仲良くなっていた。
こうして部屋で談笑するくらいには。
「そうなんです…」
「じゃあ、これ使ってみたら?」
ソルがバックから取り出したのは、何かの種だった。
「た、種?」
「そう。これは記憶の種。これを植えるときに、心の中にある大切な記憶を深く思い返しながら植えると、その記憶に応じた花が咲くんだ。」
「へ、へえ?」
ど、どういうことだ?ちょっと難しくて意味が分からない。
「簡単に言うと、思い出を込めれるってこと」
思い出を込める…。すごくロマンチックだ。
「幸せな記憶で咲かせると結構綺麗なんだ。そしてそれで花冠を作るとどうなると思う?」
「綺麗だと思います。」
「ふふ、違う」
ソルは少し貯めを作った。そして、
「なんとこの花で冠を作ると、被った人はそこに込められた記憶を追体験できるんだ!」
な、なんと。そんな効果まであるのか。記憶の追体験ができる…。
ン待てよ、てことは…
「じゃ、じゃあそれをアイリスに被せれば!」
「そう、屋敷の外に出れないアイリスにも幸せのおすそわけが出来るってわけ。」
「!!」
こ、これは良い。
綺麗な花冠を作るだけでもいい感じなのに、思い出を追体験までさせられるとは。
「あ、明日!庭に植えます!」
「うん、そうするといい。これ一週間で咲くから。」
やはり大人のアドバイスは聞いておくべきだな。
初めまして。初投稿です。
基本的に『悲劇』がこの話のメインなので鬱展開が多いと思いますがご容赦を。
定期的に続きをアップしようと思っていますので、感想やコメントご気軽に。