表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/53

45 これもゆめだもの

 「あずま」と名乗る男についていくと、邸の中央に通された。

 御帳台みちょうだいの中で、姉は横たわっていた。

 手は枯れ木のように細く、頬はこけてやつれている。


「姉上」


 そう呼ぶと、目蓋まぶたが開いた。ひび割れた唇が、「あ……」と言葉にもならない音を紡ぐ。

 そして……童のように、にっこりと笑った。

 それは久しく見たことのない、姉の笑顔だった。


「ゆきはる……」

「姉上」


 変わり果てた姉の姿が哀れで、行春は姉の元ににじり寄る。


「しあわせな、ゆめをみていたの。ちちうえとははうえがなかよくて、わたくしがいて、あのこもいて……。ふふ、かなうわけないのに」

「姉上……?」


 あの子、とはだれのことを言っているのか。

 母も暴れる時、決まって「あの子」という言い方をしていたけれど。


「あの子とは、だれですか」

「さあ……? なはしらないわ」


 姉は何か幸せな妄想をして、気を紛らわせているのだろう。行春はそう思った。


「ねえ、いまごろどうしてきたの」


 その問いに、行春は黙り込むしかなかった。


「やまいにかかったものからにげる。ちちうえとおなじくおまえはそういうにんげんでしょうに」

「姉上、私は……」


 姉の顔を見た段階で、行春の用はもう済んでいたから、言いよどむ。


「いいわ。これもゆめだもの」

「……え」

「ごくらくのゆめはここちよいのよ、ゆきはる。でもおまえにはもったいないわね……」


 姉は再び目を閉じ、すうすうと寝息をたてはじめた。

 行春は、姉の枕元の陰に、薬包紙が散乱していることに気付く。手に取って、匂いを嗅ぐ。

 彼は、近衛少将。武官だ。当然、近ごろ都を騒がせる薬のことも、母をむしばんでいたものも知っていた。


「これは」

「気づいてしまわれましたか」


 無音で、行春の首元に己の太刀が突き付けられた。ぬうっと背後から案内役をした「あずま」が現われた。


「都人は不用心がすぎるな。幾度もくびれる機会があったぞ」

「おまえは……」

「ちょうど、宮中の協力者を増やしたいと思っていた。おまえは御しやすそうだ」

「なんだと……!」

「おっと。姉君がどうなってもよいと? 父君に叱られるのでは? あなたは養子ですからね。いくらでも代わりがいると思いませんか」


 行春は無言になった。話すのもわずらわしかった。

 

「こっそり注進しようとしても無駄だぞ。監視の目は宮中にもある」

 

 男は、周囲をさっと見渡した後、行春の耳にこう囁いた。


「まず頼みたいことがある。……宮中にいる「かぐや姫」。あれを連れ出してもらおうか」


 思いも寄らぬことに、行春の身体が震えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ