38 相模の心配
40話になるべき内容が誤って38話に掲載されておりました。38話を差し替えます。失礼いたしました。
心配です。六条の邸宅に行くと相模に告げた時、彼女はとうとうはっきりと口にした。
「陰陽師が告げたことなのですから、何かあるのかもしれません。ただ松緒が行く必要はありませんよ……。それだったらせめて私が」
「大丈夫ですよ。私のほうが体力はありますし。一晩だけなので……」
「そういうことではありません!」
相模は顔を赤くした。
「姫様のことは私も心配ですよ? 今でもそのことを考えて、夜寝付けませんし、あなたが必死になるのもわかります。ですが私は、姫様と同じくあなたのことも見てきたのですよ。姫様がいなくなって、身代わりとなったあなたを……」
「……うん」
姫様にも松緒にも理由は違っても母がいなかったから、相模が母代わりだった。童のころは、六条の邸宅で三人よりそうように暮らしていたのだ。
「それでも、行きます。姫様を探したい。……それに、翁丸は、この後宮の、まさにこの殿舎で殺されてしまったのに、事情もわからないままだなんて、嫌です」
相模はきゅっと眉根を寄せて、深く息を吐いた。
「大殿の命とはいえ、あなたを身代わりにしたのは間違いでしたね……」
その言葉にかっときたのは松緒の方だった。
「身代わりを立てなければどうするのですか、世間から姫様が笑い者にされてもよいのですか。なぜ今更そのようなことをおっしゃるのですか!」
「身代わりは必要だとしても、松緒がやるべきではなかったのかもしれないと思っていますよ」
「なんで……!」
松緒は言葉を失った。
今、もっとも近くにいて、信じていたはずの女房から、まさに裏切りとも思える言葉を浴びせられ、頭が真っ白になる。
「ずっとずっと……姫様がいらっしゃったころから、思っていたことがあります。……松緒は、姫様から離れなければならなかった。あなた方二人は、一緒にいるべきではなかったのです」
松緒と相模の間に沈黙が落ちていった。
気が付けば、松緒は泣いていた。相模は室からさがったのか、室からいなくなっている。
ちりん、ちりんと涼やかな鈴の音色が耳をくすぐると、いつもの白い猫が膝の上に乗ってきた。
どたどたどた。板敷を踏みしめる陰陽師の足音も遅れて聞こえてきたので、松緒はごしごしと目元をこすって、立ち上がった。
「ヤアヤア、猫がこちらに迷いこんでおいでカナ?」
「いますよ」
松緒は白猫の両脇で抱え上げ、明るい声音で返した。
猫を受け取ったピンク髪の陰陽師はにっこり笑う。
「準備はいかがですカナ?」
「できています」
松緒は裾をからげた姿で立っていた。お忍びで逢瀬に行く女房、というのが設定だ。
「ではこのまま六条へ参りまショウ」
「……鈴命婦は?」
陰陽師は室の外へ歩いていき、抱えていた猫をそっと地面に下ろした。
「鈴命婦はかぐや姫のところには来ていなかったのですヨ。残念でしたネ……」
しれっとした顔でいうものだから、松緒は無言になった。
鈴命婦の白い体がどこかに消えたのを確認した後に、松緒は陰陽師に連れられ、後宮を抜け出したのだった。




