白状
親愛なるA様へ
余寒厳しき折からいかがお過ごしでしょうか。
今日私がこの手紙を書いたわけを申し上げますと、ある「白状」をしようと思い立った所存であります。そうです。私はあなたに嘘を吐きました。
人間だれしも嘘を吐くのは人ありにして親ありの常識でありますが、
私にとってあなたに嘘をつくのは、さびたナイフで心臓をえぐられようと、無間地獄の炎上窯に塩を振りかけながらタコゆでにされようとする何倍をつらいものであるのです。私は多くのことを白状しようと思っています。その中であまりにもの驚愕であなたがたさまがショック死してしまわないように、比較的小さなものから申し上げたいと思っております。
白状します。白状します。
実は私は唇にヒアルロン酸をいれました。豊胸もしました。
目を二重にしました。髪の毛を意図的に長くし、茶髪にしました。
あなたの好みに合わせカメレオンのように姿かたちを変容させました。
あなたの好きな食べ物はプロ顔負けなほどおいしく作れるように裏で練習しておりました。
最近の話題もチェックし、あなたとの会話を1秒、1カンマでも長引かせるように仕向けました。
あなたが探していた好色の指輪は私が盗りました。そのおかげで私はあなたと初めて会話ができました。
白状します。白状します。
実は私はあなたに近づくやからに嫉妬していました。
やきもちを焼きました。
だから
……………殺しました
あなたの友人、彼氏、兄…
みんな紫波湾に捨てました。
肉体解体の時にはのこぎりとなたを使いました。
首の骨なんかは硬くて、うまく切れませんでした。
頸動脈がきれ、ふろ場が血のうみになってしましました。しかし、あなたの兄になるときはコツをつかんで30分で解体できました。
そして、実を言いますと葬式でのあなたの表情が一番の嗜好でありました。
白状します。白状します。
実は私は男であります。あなたの前だけ女を演じておりました。女を演じ、あなたの友人となりました。
あなたは私が女装していたことに強い嫌悪を抱くかもしれません。しかし、このような方法しか私はあなたにはお近づけなれません。
私は臆病です。
あなたに嫌われないように別人を演じておりました。
ここまでの白状文を見ていただければお察しの通り、私はあなたを愛していました。
この世界のだれよりも。あなたの透き通るような眼、凛とした鼻形、着色したかのような唇、
そして、肩の方まであるきれいな髪。私はあなたのすべてが好きです。
私はあなたのすべてを知っています。
あなたが11時までには寝ること。
あなたがショートケーキを食べるときはイチゴを最後に食べること。
あなたが風呂に入っているとき「baby face」を鼻で歌っていること。
あなたが最近、生理周期が遅れていること。
そして…
あなたが難病を患っていること。
ああぁ…なんと悲しきことだ。あなたは私より先に逝かれてしまう。
あなたがいないとなったら、私の存在意義はなくなるのであります。
あなたと一秒でも長く一緒の世界にいたい…。
しかし、神のいたずらか、この世には死という概念がございます。
そこで私はどうにかしてあなたと永遠に一緒にいる方法を模索しました。
時には、隣町へ行き、時には、欧米を渡りました。
しかし…残念ながらあなたの病気を治せる医者はございませんでした。
いわゆる不治の病というやつです。
ああぁ、、これは困ったどうすればいいのか!
私は考えました。
気が狂うほど考え、発狂しながら家じゅうのものを破壊の限りを尽くしていたところを家族に見つかりました。
ついには精神病棟へ隔離され、統合失調症と医者に言われました。とんだやぶ医者ですよ。
しかし、本日思いつきました。
私が「あなた」になればよいのです。
そうすれば私とあなたは生涯一緒で入れます。
我ながらなんと良い方法でしょうか。
本当なら、この大発見の喜びを町を走りながら、大声で叫んで表現したいところですが、
準備に忙しいためそんな暇はございません。
さて、私があなたになる方法についてご説明したいと思うのですが、これには一つ私の少年の頃の話をしなければなりません。
私が少年のころ、周りの子がやっているようなドッチボールや鬼ごっこ等に興味はなく、黒魔術に関心を持ちました。
カエルやセミなんかをとってきては、内臓をえぐり取り、魔法陣を描き悪魔召喚の儀をやったものです。
一度近所の犬でやろうとしたのですが、麻酔を打とうと刺した瞬間、犬公のやろう一丁前に私にかみついてきやがって、怒りのあまり跡形も残らないよう殺してしまいました。
その二日後、犬の持ち主らしき人がうちに押し寄せ、「動物愛護―」とか、「賠償金―」
とか言っていたようですかはるか昔のことなのであまり覚えておりません。
少し、話が小道に寄ってしまいました。
その、黒魔術本の23ページには「生物統合魔術」がございました。
「生物統合魔術」の方法といたしましては、まず片方の脳、心臓を取り出しまして、
もう片方が捕食するのであります。
そして脳、心臓の母体のDNAの結晶である血を飲むのであります。
実に簡単でありましょう。
これだけであなたと私は一緒になれます。
大丈夫です。麻酔を使い、痛くないよう済ませます。
白状します。白状します。
実はあなたの家の前におります。
あなたのすべての情報を知っているので、あなたがいつ頃この手紙をお読みになるのかの推測は容易でありました。
あなたは今、8時ごろ、この手紙を見ているでしょう?
―っはとして、時計を急いでみると昔風のアナログ時計は8時8分を指していた。
それと同時に階段を一段、また一段とあがってくる音が聞こえる。
その足音は廊下を数歩歩いた後、私の部屋の前でぴたりと止まった。
ドアノブが下に下がり、扉が少しずつ開いていく。
そこには…
母がいた。
安堵とともに、母に聞いた。
「なに?これ。母さんが書いた手紙のいたずら?」
「手紙?そんなの知らないけど…。
あなたの友達さんがどうしても8時8分にあなたの部屋を開けろっていうもんだから。」
冷や汗が手紙に落ちたので手紙の方に目をやると手紙にはまだ続きがあることを発見した。
―白状します。白状します。
私は臆病です。チキン野郎です。
あなたとの対面を前に恐れ、逃げ出してしまうような男であります。
どうか。どうか。私どもをお忘れください。
記憶のかなたへと押しやってください。
お願いします。お願いします。
手紙はこれで終わっていた。
ある作品に影響を受けました