婚約破棄を言い渡したら、その日のうちに国が滅亡した話
中央国家群の戯曲で、悪役令嬢なるものが流行っているそうだ。
聖女でもあるヒロインが、実は悪役であり、王子の婚約者を陥れようと画策し。
王子は、婚約破棄をし、その後、ヒーローが現われ、ヒロインの悪事を暴き。王子は没落し、婚約者はハッピーエンドになる。
全く、下らない。
今、サウス王国王太子の俺は、その戯曲で言うところの悪役令嬢を裁いているところだ。
「何か、申し開きはあるか?」
「・・・あの方は魔女です。殿下・・目をおさまし下さい・・」
「泉に突き落とすぐらいなら、まだ、可愛いものだ。刺客を雇い襲わせるとは。死ぬところだったぞ?」
「・・・あの方は魔女です。殿下・・目をおさまし下さい」
「ええい。同じことしか言えないのか!!」
「殿下、その女の耳に、鉛を流し込んだのではありませんか?薄らと殿下の声が聞こえている程度だと思います」
「おお、そうであったな。聞く耳を持たないなら、耳は必要無しと我が命じたのだな」
・・・しかし、この女は、7回も聖女の暗殺を試みた。
三ヶ月間に7回だ。
三ヶ月前、突然、王門の前に、気品あふれる本物の聖女様が降臨された。
衛兵が見つけ。即、王宮にお連れし、陛下と謁見。
とても、素晴らしい愛のあふれる教えに、陛下や、王太子である我と廷臣たちは涙を流して感激したものだ。
私と婚約者である公爵令嬢ルイーサが、お世話をすることになった。
市井に混じって活動されていたそうで、貴族社会は不慣れだからだ。
しかし、ルイーサは
「・・私には聖女様の素晴らしさがわかりません。お話も、一般的な道徳の焼き直しですし、それに・・・何だか。怖いです」
「ふむ。そなたの家は聖女を輩出する名門であったな。聖女リリム様は、市井でご苦労されたのだ。そちたちは、おごっているのではないか?」
「・・・そのような・・」
何かと突っかかる。
まあ、仕方ないかもしれない。聖女の座を、満場一致で奪われたのだからな。
・・・
「何?ルイーサがリリム様を、聖なる泉に、突き落とそうとした。本当か?」
「はい、護衛騎士が止めました。落ちたら、深いので溺死したかもしれません」
「何と・・」
・・・自分で見たわけではない。もしかして、間違いかと思いルイーサに問い詰めたが
「本当です。私がやりました。あの方は魔女です!一度、聖王国の女神教の司教様に確認しては・・」
「ああ、もう良い。そなたはお世話係を外す。お茶会も当分無しだ!」
「殿下・・・信じて下さい」
・・・
そして、聖女リリム様は刺客に襲われることになる。
いくら拷問をしても黒幕は吐かない。
刺客は、ゴロツキではない。逆に、全てルイーサの公爵家に連なるものだと推理できた。
「まさか、ルイーサと公爵家は、魔王軍とつながっているのではないか?」
・・・
ルイーサを牢に入れ、ルイーサの郎党が、聖女様の暗殺を試みる度に、ルイーサに罰を与えた。
足の腱を切り
耳に鉛を流し込み
腕を切り
とそのたびに、罰を晒したが、効果はなく。
逆に、公爵は逆恨みした。
「謀反だと!」
「公爵閣下自ら、兵を率いて、王宮に進軍中。その数騎士300!黒幕は公爵です」
「ええい、国境に配備している騎士団を呼び戻せ。挟み撃ちにするのだ」
激戦の結果、ルイーサの父を捕らえ。取り調べをした。
我がサウス王国、唯一の公爵家、野原に切り捨てるわけも行かず。何故、頑なにリリム様に、病的な悪意を持っているのか。単純に知りたいのもあった。
「・・聖女と偽るリリムの為に、増税し、民を酷使し、外国から高価な宝石やドレスを購入する。大義のない増税は反対だ。あの女は魔女だ!」
「おう、縛られてもなお。勇ましいな。少し増税しただけだ、リリム様の素晴らしい教えを広めるために、民は喜んで、税を負担しておる。リリム様のおかげで我国は愛に満ちあふれている」
「世迷いごとを、我が娘、ルイーサの目を潰し、耳に鉛を流し込み。足の腱を切り、両腕を切断した。許せることではない!」
「目を潰したのは、
リリム様を見つけ害さないためだ。
耳に鉛を流し込んだのは、リリム様の声を聞かないからだ。
足の腱を切ったのは、リリム様の元に行って害させないためだ。
腕を切ったのは、リリム様に、石を投げさせないためだ。
理解できたかな?公爵閣下」
「狂ってる・・」
「これ以上、話しても無意味なので、処刑だ」
この日、ルイーサの一族を、皆殺しにした。
・・・
「さて、ルイーサよ。耳が聞こえなくても言わねばならない。
我は、お前との婚約を破棄し、私はリリム様と夫婦になる。お前は、便所の中に吊るしその中で生きよ」
その時だった。
伝令兵が、この王宮の中庭に、馬ごと入ってきた。
「はあ、はあ、殿下!一大事でございます!魔王軍が国境に来襲!四本角の旗に褐色や、角のある部族、間違いありません!」
「な、なにー、ルイーサよ。お前は、やはり、魔族と通じていたのか!」
まさか、魔族と我が国の間には、人族の大国が三つ連なっている。
全部、魔王軍の傘下に入ったのか?
何、こちらは、真の聖女リリム様がいらっしゃる。
魔族とて怖くないわ。
しかし、
次々と凶報がもたらせる。
「国境に、敵軍、鷲の旗、ザイツ帝国軍来襲!」
「同じく、獅子の旗、ノース王国軍来襲!」
「デルタ王国の旗も見受けられます!」
「・・聖王国の御旗、邪教討伐旗が上げられてます」
女神圏の人族、4列強が、攻めてきただと。
最後の報告が一番わからない。
リリム様は聖女のはず。
それに、人族と魔族は、北方で戦争をしていたのではないのか?
更に、続く報告から、敵軍の全体像が見えてきた。
人族、魔族、エルフ、ドワーフの四族連合軍だ。
「エルフ族の弓兵多数。ドワーフの攻城兵器で、砦が次々と陥落してます!」
「な、なに、一体どうなっている」
「鑑定スキルの者から・・兵力は10万以上!鑑定スキルの者は10万以上鑑定できません」
「は、我国の総人口と同じ、いや、それ以上か!」
・・・国境に、騎士団700人しかいない。
わずか、10分で国境警備隊は壊滅した。
「ルイーサを便所につるすのはやめだ。我が軍の肉の盾として、使うのだ。農民の徴兵を急がせろ。それまで、近衛騎士団のみで、籠城だ!」
ルイーサを十字架にはり付け、城門に掲げさせた。
いつでも、弓で殺せるように兵を配置し。
人質の意味もあるのだ。
あいつは魔王軍のお気に入りかもしれない。
城で、御前会議を行った。
陛下と、軍官、文官を集めて、議論を続けたが、リリム様は、昨晩、陛下との愛の講義で、お疲れのようだ。
こちらには、真の聖女、リリム様がいらっしゃる。
最後に勝つのは私たちだが、現状は厳しい。
しかし、凶報と朗報が二つもたらせる。
「大変でございます。敵軍が、民を虐殺しております!」
「な、何だと、皆、リリム様の信徒ではないか?何と言うことを・・」
「はい、軍が立て直せる時間ができました。南方を中心に、徴兵をしましょう。
万が一の時は、港で、リリム様を船に乗せ脱出させれば、真実の教えは生き残れます。
リリム様さえいれば・・」
「うむ。早急にやれ」
「殿下!大変でございます。南方の港に、イース海軍が海上封鎖、各国軍の兵を上陸させ、王都に進軍中との報告がございます」
「北方は囮だったのか・・」
「「「リリム様に出陣をして頂くしかありません」」」
「起こしてきて差し上げろ」
・・・南の港から、王都までの村々で、激しく抵抗が続いた。
「目を見てみろ。六芒星がくっきりと浮かんでやがる」
「子供だろうが、殺せ。今の魔術では元に戻すのは魔女を殺すしかない。戻ったらこいつら地獄だぞ。こいつら、肋が浮き出ている。報告通り、税9割って本当だったのだな」
「ああ、娘を売り。女房まで喜んで売り払ったと聞いたぞ。奴隷市場や娼館は、サウス王国人であふれている」
イース海軍陸戦隊が、露払いをしているところを各国軍の騎馬兵が通り抜ける。
「王都に、急げ。王都を取り囲むのが我等の役目、決して、王都の中には入るなよ。魅了されたら、即座に味方でも斬る。我等の役目は勇者様の囮だ!」
「「「御意!」」」
南の侵攻も囮であった。
王太子たちは気が付かない。
が余裕だ。
☆☆☆サウス王国王宮
「リリム様、ご降臨!」
「「「ハハハー」」」
宝石を埋め込み布地が見えないくらいのドレスを着た50代の女性が、王座に座った。
・・・フフフ、お貴族様が、この女コジキだった私に、ひれ伏すとは愉快で仕方ない。
王門の前で、腹を空かして倒れたら、衛兵が聖女様といいよる。
どうやら、私に何か加護がついたらしいのう。
こいつら、何でも言うことを聞く。
ベットの方も充実している。お父ちゃんの方は、経験が豊富でいいね。王子は勢いだけだね。
しかし、皆、こんな50歳を越えたババを良く抱けるよね。
この宮廷にいる顔は皆試したね。
・・・聖女リリムは、魅了の力によって、王太子妃の座に君臨しようとしていた。
しかし、外での状況を聞くと。
・・・なら、私の不思議な力で、世界中の王をひれ伏れさせる。
簡単さね。ただ、見るだけで良いのだから。
あの貴族のお姉ちゃんだけは、ダメだったけど。何とかなるだろうよ。
「大変です。王宮の上に・・・魔王軍のドラゴンが!現われました!」
「「「何!」」」
ドラゴンの上には、勇者二人と、エルフの弓兵とドワーフの戦斧の勇者パーティーがのっており、魔王軍のドラゴンナイトが、ドラゴンを操っていた。
「認識阻害魔法解除、マスター、今、王宮の上です」
とエルフが魔法を解く。
「平三さん。これからは勇者二人でお願いします。わしらでは取り込まれる」
ドワーフは平三に、刀を渡す。彼が話を聞いて作った日本刀だ。
「おお、有難う。これじゃなきゃな。
ところで、酒呑童子(魔王)と戦う寸前に、急遽、和平とか言われて、おどろいたぞ。お小夜どん」
「ああ、そうね。平三様ね。私、城門につるされているあのお姫様に、[完璧に治れ!]を掛けたいの」
「バーフェクトビアじゃろ?」
「パーフェクトヒールだよ。ハイカラ言葉だと、言霊が乗らないの!」
二人は、軽口を叩きながら、飛び降り。
構わずに、王宮奥へ進む
「何だ、あの黒髪と黒目の、小柄な奴らは、男はバターのように、甲冑兵を両手刀で斬り、
女の方は、琵琶か?何か楽器を奏でているぞ!」
テケテケテケ~
音を聞いた兵は、目から六芒星が消え。魅了が溶ける。
「あれ、俺は一体何をしていた」
「私は日本橋で三味線のお稽古をしていた平民のお小夜だよ」
「俺は東京士族の平三だ」
名乗りを上げると、リリムと対峙する。
「ババじゃんかよ。どんな良い女が国を牛耳っていたかと思ったけど」
「ババ言っちゃいけない。だけど、憎たらしいね」
リリムは、両手を広げ、二人に、来いというようにジェスチャーをし
「何故、人は殺し合うのですか?その腕は武器を持つためにあるのではありません。愛し合しあうためにあるのです」
と誘った。
「ゲッ!」
と平三は即座にリリムを斬った。
悲鳴を上げる間もなく、リリムの首は床にコロンと転がる。
「平三様・・・それダメでしょう。気持ちわかるけど」
☆☆☆
~~~~~プチン~~~~~
と国中で、何かかがちぎれる音がした。
・・・あれ、俺は何をしていたのだ。
状況は・・わかる。わかってしまう。
「ウワワワワワーーー、ルイーサ?ルイーサはどこだ!」
あああああああ、俺は、とんでもないことをしてしまった!
☆☆☆150年後、聖王国教会
サウス王国は、その後、民は全て、四族連合軍により殺害されました。
聖女の一族だったルイーサと、公爵家一族郎党は女神様の加護があり。魅了にかからなかったのです。
ルイーサ様は、当時の転移聖女、オサヨにより、パーフェクトヒールを掛けられ、全快しましたが、生涯、亡きサウス王国国民のために、元王国に一人残り、祈り続けたと言います。
しばらくは、サウス王国は禁足地とされましたが、魅了反応が無いと確認されてから
ノース王国の王族に割譲され、開拓民と共に、ファミル王国が誕生しました。
さて、これほど、魅了とは危険なのです。
魔族ですら、即座に人族と和平をして、討伐するものなのです。
親の敵でも、手をつなぎ。
魅了持ちの抹殺に協力するのがこの世界の常識です。
魅了持ちは年老いた老婆でも、何もしなくても、美青年が言い寄ってきます。
どのような醜男でも美女が傅きます。
リリムの首は、研究の後に、山奥に結界を張られ封印されました。
「さて、今世の転移聖女セイコ様、また、魅了持ちが現われたら、魅了がかからない転生者殿に、先頭に立って討伐して頂きます」
「わかりました。法王様」
彼女は転移前、平民、商会で事務方をしていたと言うが、魔力は随一。
しかし、また、魅了持ちが現われることになるとは誰も予想ができなかった。
最後までお読み頂き有難うございました。
もしかしたら、連載するかもしれない作品なので、続きがあるような終わり方にしました。