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第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞

鏡を越えて、手を伸ばして、そして……

作者: 黒銘菓

 私には、ある時から不思議な力が目覚めた。

 それは、『鏡の中の世界に入れる』というものだ。



 日曜日の夕方、学校のトイレ。

 休みの日はやっぱり静か。手を洗いながらそう考える。

 目の前には大きな鏡。でも、とっても不思議な鏡だった。

 私ではない青白い顔の女の子が()()()()映っていた。

 両隣を見ても誰も居ない。顔に何かが付いているワケでもないのに。


 鏡の()()()()誰かが居た。


 相手は青白い顔のまま、蛇口から吐き出される水にずーっと手をさらしてた。

 やっぱりそうだ、鏡の向こうの人だ。

 そうして、そのまま時間が経つ…って事はなかった。

 鏡の向こう、トイレに誰かが一人入って来た。

 でも、『一人』と言って良いのかはちょっと悩む。

 だって、トイレに入ってきたのは皮膚がどす黒く(ただ)れて、目が6つある口から牙を覗かせた怪物だったんだから。


 後ろを振り返ったけどやっぱり誰も居ない。あの怪物は向こうに居る。

 そして、鏡に映っている誰かはそこから動かない。

 違う、動けないんだ!


 「逃げて。」

 そう言っても、一歩も動かない。

 鏡の中で怪物が迫る。

 怪物は鏡の前の彼女に手を伸ばす。

 「逃げて、逃げて!こっちに!」

 そう言って鏡に手を伸ばす。鏡は私の手を飲み込んで、映す景色に波紋を作る。

 私の能力があれば彼女だけをこちら側に引っ張れる!なのに、彼女は顔を更に青ざめさせて黙るだけで動かない。

 手を伸ばすだけ。伸ばすだけなのに!


 怪物のどす黒い異形の手が女の子に伸びて、そして………………



 私の手は届かなかった。





 「よっ!準備おつかれー!どしたん?鏡なんか見てボーッとして?」

 異形の怪物が明るい声で私に話しかける。ハッとなった私が鏡を見ると、そこには私と怪物の仮装をした友達しか居なかった。

 「ぇ…見えなかったの?」

 「?なにが?」

 「鏡の向こうで女の子、鏡から手が伸びて……!」

 「いきなりどしたん?」

 怪物のマスクを外した友達が言った。

 「どれどれ?何かの仕掛けが………って顔真っ青!どうしたん!?風邪?保健室行く?

 確か文化祭の小道具担当だよねアンタ、私はもう準備終わったから、なんなら変わるよ?」

 友達が私の顔を見て不安そうな顔をした。

 「…や、大丈夫!ごめん、ただの見間違いだった!行こう!」





 あーあ、あと、ちょっとだったのにな。

 まいっか誰かがこっちに来れば、私は代わりに出られる。

 それは誰でもいい。だから私は手を伸ばす。

 鏡の向こうから此方に引きずり込むために手を伸ばす。







 此方(こっち)に来い

 前にホラー企画があった時に書いたものをリメイクしました。

 その時は割とランキング上位に食い込めたので、その時の味を占めて……というヤツです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うわぁ!と思わず声が出ました。 「うわぁ」は恐怖の為なのか構成にヤラレタ感なのか自分でも判断でき兼ねておりますが、この短さなのにめちゃくちゃ揺さぶられました。 後引く恐怖です…
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