街道を行く
『この世界を生きていく』そう決意した空は翌日からクロに戦闘の教えを乞うた。
猫のクロと人である空には埋めようのない差があり、気配の消し方や獲物の見つけ方など身体のスペック頼りのものはあまり参考にならなかったからである。
しかしながら戦闘に於いても猫と人の差はあったが経験は積めた。
結局空は鉄の剣と革の盾を使うこととし、クロはレイピアをよく使うようになった。
数日もすれば少しずつだが様になってきた。
探索もぼちぼち進めたが、あまり進歩はない。
小鬼も少数で有れば狩ることとし装備もある程度整ったこともあり、1週間が経った頃には5.6匹を同時に相手取れるようになった。
食べ物は角兎と小川で取れる魚。あとは小鬼が草を茹でて食べているのを見つけ鍋ごと強奪し野草を食べられるようになっただけでなく肉も気分で茹でて食べるようになった。
クロは相変わらず肉を生で食っているが猫だから大丈夫なのだろう。空もいけそうな気がしなくもないがこんな状況で慣れないことはするものではない。
そんな日々を過ごしていればあっという間に1ヶ月が経ち、空は邪魔な髪を後ろで結くようにり、小鬼からの戦利品も増え空は革の鎧を身に纏うようになった。
次第に街や村への期待も薄れていた頃、2人は整備された街道に出た。
「えっと…これ、道だよな?」
「うむ。道…だな。」
「馬車が通った様な形跡もあるし道沿いに行けば街に出られるかもしれない。」
「これでようやく文明人へと戻れるな。」
しかしここで問題が生じる。
道は一本でどちらに進んでもどこかしらには行けるだろうが出来れば大きな街に出たい。
どちらに進むか決めかねている時だった。
「空。血の匂いだ。」
「とりあえず、様子を見に行こう。」
クロの案内で血の匂いのする方へ進むと馬車が小鬼に襲われていた。
小鬼の数はざっと10〜15匹それを統率する青い小鬼。
対する馬車の護衛は5人、その内1人は負傷し後ろへ下がっていた。
「助太刀する!」
そう叫んで飛び込んで行った空は馬車に夢中になっている小鬼を叩き切る。
遅れて到着したクロも空の乱入に驚いた小鬼の胸にレイピアをねじ込む。
「今だ!押し返せ!」
護衛の指揮官らしき人物の声に合わせ護衛も態勢を立て直し、数分後には全ての小鬼は屍に姿を変えた。
戦闘を終え、一息つく2人に指揮官らしき人物が声をかける。
「助太刀感謝する。俺はダグラス。Cランクの冒険者で見ての通り護衛任務中だ。」
「俺は空、そんでこっちがクロ。」
「ケットシーなんて珍しいな。なにはともあれ助かった。お前らこれからどこへ向かうつもりだ?」
「いや、それが…」
「決まってないのなら一緒に来ないか?最近小鬼の森が騒いらしくてな。俺らだけじゃ不安だったんだ。」
「あぁ。そちらさえ良ければ同行させてほしい。」
護衛をしているという商人に許可を取り、2人は馬車に乗り込む。
馬車は思いの他広く、2人が乗ってもまだ少し余裕がありそうだった。
馬車はクアルカという街に向かっているらしく、ここアグリと言う国ではかなり大きな街らしい。
ダグラスのパーティーは剣士のダグラスにシーフのルーカス、魔法使いのナナ、弓士のララ、僧侶のラークというメンバーで構成され、一通り紹介を終えた所でダグラスが小声で話かけてきた。
「お前ら…あんなところで何やってたんだよ。小鬼の森は今大人しくしてた小鬼が人を襲うようになってギルドがピリピリしてんだ。あんなとこふらついてたら怪しまれるぞ。」
「いや、何やってたも何も俺らあそこで暮らしてたし…」
「はぁっ!?小鬼の森で暮らしてた?正気か?」
「気づいたらあそこにいたんだ。好き好んで暮らしてた訳じゃねぇよ。」
それからダグラスに今までの経緯を説明する。
元いた世界の事は伏せ、目が覚めたらあの森にいて1ヶ月間生き延びた、と。
「おいおい…1ヶ月っていったら丁度小鬼が騒ぎ始めた頃と同じじゃねぇか。」
「そりゃ目に入った小鬼を片っ端から狩ってたんだ。騒がしくもなるさ。」
「いや、それだけではないと思うぞ。」
ここまで無口だったクロが口を開く。
「小鬼同士が争っているのを何度か見たことがある。おそらく、群れが2つに分裂している。」
「王鬼が2体生まれちまったってのか?」
ダグラスによると鬼は緑色の小鬼、それを指揮する青色の中鬼、集落を守る赤色の大鬼、そしてそれらを束ねる黒の王鬼が存在するという。
王鬼に束ねられた鬼達は王鬼に絶対服従で基本的には鬼同士で争わず一つの集団としてまとまるらしい。
そしてその鬼同士が争っているとなると王鬼が2体生まれている可能性が出てくる。
そこまで話した所で城壁に囲まれた街が見えてくる。
「あれがクアルカの街だ」