クロ
小鬼と遭遇してから数時間後、2人は岩肌に洞穴を見つけた。
黒猫は食べ物を探しに行き、足手纏いになるであろう空は洞穴付近で薪を拾い。
現実世界での知識を元に必死に火を起こした。
黒猫が角の生えた兎(2人は角兎と呼ぶ)を捕らえ
黒猫は生で空は枝に肉を刺し、起こした火で炙ってかぶりつく。
空も獲物をとってきて貰った手前調味料が欲しいなどと贅沢は言わない。それよりも先ずは飢えを凌がなければ死が待っている。
「なぁ、クロ。お前が兎を捕りに行っている間に考えたんだけどさ、街へ出よう。」
「クロとは我のことか?」
「うん。クロ。ダメか?」
「名などどうでもよい。好きに呼べばよい。」
「じゃあ、改めてクロ。街へ出よう。」
「うむ。主よ、それは良いとして街があると言う確証はあるのか?」
「クロも俺のことは空と呼べよ。なんか距離感じるだろ?確証はない。ないけど、小鬼でさえあの程度の知性があるんだ。ヒトに違い種族が群れて暮らしていても不思議はないだろ?だから、ここを拠点に少しずつ探索して街、いや村でもいい。そこへ出よう。」
「そうだな。我に不便はないが我を助けようとした空がそこいらで野垂れ死ぬのは目覚めが悪いからな。」
「そうかよ。まぁ、なんだ、ありがとう。」
そんな会話をして2人は目を閉じる。
深夜、クロは目を覚まし空を起こさぬように洞穴をを出る。
見慣れている筈だが、どこかいつもと違う月を見上げていた。
「ふむ…クロか。悪くはないな。」
そう。初めて名を貰ったことに冷めやらぬ興奮を覚えていた。