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中学時代

 二人が小学生に上がってもリンナはよくレイの家に遊びに来たが、学年が上がるにつれ頻度は下がっていった。リンナが中学生になると訪問はぱたりと止んだ。レイもほどなく上の学校に上がった。

 中学生になってからレイは友だちと同じ塾に入った。その友だちが早々に辞めてしまってもレイは週二回欠かさず通っていた。教室の面々とも次第に仲良くなり、いつからかスガちゃんという女子の子分のような立場になっていた。

 スガちゃんは別の中学校の生徒で、わざわざ放課後電車に乗って通っていた。いつも学校の紋章と名前の刺繍が入った水色のジャージを着ていた。短髪で日焼けした顔は一見男子のようであったが、くっきりとした目となだらかな輪郭がどことなく可憐であった。レイはいつも制服を着て髪を二つに結んでいた。講師が生徒に質問をすれば、最初は様子をうかがって、誰も答えない時だけ手を上げるのがレイだった。他の生徒たちは学校よりも緊張感のない塾では講師に冗談を言ったりふざけたりしていたが、レイは必要以外発言せずひたすらノートを取っていた。そんなレイを、スガちゃんはどういうわけか気に入ったのだ。

 授業前に教室に入ってくると、スガちゃんは

「おいニャー助いるか?」

と声をかける。以前皆で動物のものまねをして以来レイは「ニャー助」だった。

「ここだよ」

 レイが手を振れば、スガちゃんがやってきて

「このやろっ。また疲れた顔してやがってこのやろっ」

 と小突く真似をする。レイは心が満たされるのを感じながらも格好つけて答える。

「こんな夕方に元気のある奴なんかいやしないさ」

「年寄りかよ。元気出せ、ほら、ニャー助は元気です! 参杯」

「ニャー助は元気です!」

「よろしい。元気出していけ、声出して、な?」

 そう言ってスガちゃんは席に着く。授業はあっという間に始まる。


 レイは成績が良かった。卒業までずっと学年十位より下に落ちたことがなく、たいてい五位以内に入っていた。塾では一番だった。中学一年生のこのときでも試験の度に話題に上がった。

 塾の模試でまたもやレイが一位だったことが判明し、授業が終わると早速スガちゃんがレイの元へやってきた。

「お前また一位なんて取りやがったな? このやろ、秀才め」

 スガちゃんは肩を組んで小突く真似をしながらレイの頭をなでる。周囲は

「また絡んでるよ」

と可笑しそうに笑う。

「遠慮しないでちゃんと親にご褒美もらえよ?」

「うちご褒美とかあんまりないからさ」

「欲しいって言わないからだろ? 私だったら小遣い倍にしてもらうよ」

 スガちゃんの体温と吐息が肌に触れて、レイは安心感を覚える。戸惑いながらも毎回うれしかった。

 やわらかいジャージに触れながら間近で見て、レイは前から聞こうと思っていたことを思い出した。

「ねえ、スガちゃんの学校に白川リンナっているでしょ?」

 突然スガちゃんは頭をなでる手を下ろし、固まった。

「白川先輩がどうかした?」

「あれ、私のいとこなんだ」

 するとスガちゃんは顔面蒼白になった。スガちゃんと同じ学校の生徒が

「ちょっと、ヤバイじゃんスガ」

と言って大笑いしている。

 スガちゃんはうろたえた様子でしばらく唇を開閉させ、

「白川先輩のいとこさんとは知らず、とんだご無礼をつかまつりましたでござんす。お許しくだせえ」

と芝居がかった口調で大げさに頭を下げた。レイはふざけて返事をした。

「うむ。苦しゅうない」

スガちゃんはいつまでも頭を上げなかった。

帰りに教室の扉を開けると、点滅する蛍光灯の下で、コンクリートの階段に男子が二人腰かけ、レイのほうを見て小声で話していた。

「白川リンナのいとこなんだってさ」

「マジで? もう最強じゃん」

 レイは気づかないふりをして足早に通り過ぎた。


 それからスガちゃんはレイに絡まなくなった。話すときは敬語を使い、レイのことは「いとこさん」としか呼ばなくなった。レイは消えたスガちゃんの体温分孤独になった。そして、あれだけ恐れられているリンナは学校でどのような振る舞いをしているのだろうかと思いを馳せた。

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