決まらぬ作戦
「何だ?」
「ユキちゃん…ソケネの近くに居たら…召喚者だって…」
ハッキリと言いたくなくて、ごにょごにょと言葉を濁してしまう仁。知らずユキを抱く手に力が入ってしまい「ままー、大丈夫ー?」と心配される。そんな仁の傍にしゃがんだサマエルは威嚇するユキの頭を軽く撫で、仁の頭も撫でる。
「さっきも言ったが、ユキは闇の属性だがジンの純粋な魔力に満たされている。今更ソケネの薄汚れた魔力に晒されたとしても、何の問題も無かろうよ」
サマエルの辛辣なソケネ批判に口元が緩む仁。
「そうなの…?なら、良かった…」
安心してユキを優しく撫でる仁。未だサマエルに触られたままのユキは微妙な顔だが、仁が嫌がらないので我慢する。
「…あなた…本当にソケネより強いのに…。この世界の契約って、もの凄い拘束力があるのねぇ…」
見上げて来る仁の目には憂いの色が見える。
「…ソケネの魔力は、お前が倒した魔族よりも少し強い程度だ。今は魔王の核に依存する形で最大限の力が出せるだけだろう。正直な話 いっその事、あの結界を破る為に核に集めた魔力を使い切ってくれれば楽なんだが…」
「まぁ、そう簡単にはいかないよなぁ…」ボヤくように呟いたサマエルは、ふう…と息を吐いて部屋を出て行った。仁はユキをしっかりと抱き締めたまま見送ると、「ユキちゃん、ありがとうね。でも、サマエルは良い人よ?」と体中を撫でまわしてから共に布団に潜り込むのだった。
*
仁の部屋を出たサマエルは、自室に戻る前にソケネの確認をしようと足を向ける。そこには四将のじいさんが居た。
「一位、どうしました?」
「じいさんこそ、何やってんだ?寝ずの番でもする気か?」
じいさんは軽く笑うと頷いた。
「あのソケネが大人しく捕らえられているのが気持ち悪くて、確認せずにいられないのですよ」
「確かになあ」
ソケネを前に二人は佇む。
最後の魔王と同じくらいに生き汚かったソケネ。自身より力の弱い者は元より、遥かに力の強い邪魔者も使える手は全て使って排除していた。あまりの非道ぶりに業を煮やした者たちがソケネをどうにかしようと立ち上がったが、時すでに遅く魔王に取り入っていたソケネの立ち回りで逆賊として極刑を科せられた。
良くある小悪党の、良くある出世物語ではあるが少々度が過ぎた。
「…あれ?一位とじいさん?」
「なんだ?結局、全員かよ」
灰色と筋肉が笑う。ヒョロも「ソケネの様子を見ようとここまで来て二人に出くわした」と笑い出す。魔族五人は交代でソケネを見張る事にして、それぞれソファで仮眠を取るのであった。
*
翌朝、朝食を終えたサマエルと仁、ネイサンは共に女魔将の待つ部屋に向かっていた。
「二位は、まだ完全に力が戻ってなくてな。紹介が遅れてすまん」
サマエルがノックをし、返事を待たずに中に入る。
「連れて来たぞ」
そこで待っていたのは、綺麗な女だった。サマエルと並ぶと一幅の絵のようで、仁は思わず見惚れてしまった。
その女はネイサンが入った時に一瞬、目を見開き驚きの表情を浮かべた。
サマエルはその様子に気付きはしたが何も言わずに二人を紹介し、女は「よろしく…」とだけ返して黙り込んだ。
仁も二位の表情に気が付いたが、何も言わなかった。ネイサンも気が付いたはずだが、顔には全く出ていなかった。
「二位はいつもこんな感じだ。気にしないでくれ」
サマエルは言い、四人連れ立ってソケネの置かれた部屋に向かった。
部屋には既に四将も集まっている。二位は、仁の結界を見て言葉を失った。
「…ジンの結界は本当に凄いよな…」
全く薄くなる気配の無い結界に、灰色がしみじみと呟いた。
仁はソケネの様子が分からないので、ネイサンに聞いてみた。
「せんせー、ソケネはどうなっているんですか?」
「…今は全く動きが無いな…。だいぶ魔力を消費したようだが、見えないか」
「はい…。やっぱり、黒い固まりにしか見えません…」
「黒い固まり?」
ネイサンとの会話を聞いて、じいさんが口を挟んだ。
「ええ…。あたし、最初からソケネが黒い魔力の固まりにしか見えないんです…」
「それはまた…不思議な事ですね…」
「…もしかすると、魔王の核を持っているからじゃないか…?」
ヒョロが言う。
「それだって、ジンだけが見えないってのはおかしいだろう?」
灰色に言われて「まあなぁ…」と答えるヒョロ。
「案外、そうかもしれんぞ。こいつは変わっているからな」
ネイサンが混ざった。仁は複雑な顔でやり取りを見守る。
「…さて。その魔王の核、どうやってソケネから離すかね…」
サマエルの言葉に色々な意見は出るが、どれもこれも決定打に欠ける。
終いには「今なら弱っているだろうから、開放して油断した所を狙えばいい」なんていう意見まで出た。一考の価値はあるだろうが、解放されたソケネが周辺諸国をそのままにするはずがない。少なくともセルゼ、セファ、ツォル、ミシュマルの四国は無事には済まされないだろう。誰ともなく反論が出て、再び皆が押し黙る。
「…もう少し我々の力が回復するまで、このまま結界に封じて置けないのか…?」
「侵された土地の浄化は、時間が経てば経つほど難しくなりますよ。…昔のように魔力に満ちた世界だったら…まだやりようはありましたが…。わたし共がこの地の浄化をするという前提があると、魔力の無駄使いは出来ませんし…」
じいさんのぼやきに、また沈黙が訪れる。良い案など、すぐには出ないと分かっていても焦りもあって頭を抱えるのであった。




