ユキの正体?
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仁は躊躇してサマエルの手から離れた。
「…ソケネが言うには、アメカーヤの城内に現れるはずの”種”はミナクルの側にある森に顕現したそうだ。必死に探したが見つからなかったとも。普通に考えれば、場所がズレる事は絶対に無いはずだし 術者が追えないというのも変な話なんだが…より大きな力に惹き付けられ 護られたと考えれば…有りえなくは無いのかもしれん」
仁の眉間にシワが寄る。
今サマエルが言った場所は、確かに仁がユキを見つけた場所だった。
「…ユキちゃんは…大きなボアに襲われそうになっていた、小さな小さな獣の赤ちゃんだったわ…今にも消えそうな声で助けを求めていたの…。”種”なんかじゃないわよ…」
自分の手の平を丸めて、どのくらい小さかったかを表現する仁。
「…その声の元を探す間、お前は何を考えていた?何故、ユキはオレすら見た事の無い獣の姿をしている?」
「え?」
仁には、サマエルの言っている事の意味が分からない。
「…あたし…?」
声の主を探し求めている間、仁は家を出てから初めて保護した猫の事を思い出していた。
か細い声で鳴いていた、生後一週間ほどの真っ白い子猫。仁は雪と名付けて大切に育てあげたが、五歳を迎える前に病に侵され治療の甲斐も無く逝ってしまった。この世界に来る、一年ほど前の話だ。…ユキの呼ぶ声は、雪の声によく似ていて…だから余計に必死に探したのかもしれない。
「…あたしが望んだ姿だって言うの…?」
サマエルは何も言わずに仁を見ている。仁の中の逡巡や葛藤が目に見えるようだ。
「…それで、もしユキちゃんが”種”だったら…?どうするの…?」
「どうもしない」
「え?」
ひどく気の抜けた声を出す仁。
「言っただろう?確認したいだけだ」
「本当に…?あたしからユキちゃんを取らない…?」
今にも泣きそうな、子供のような顔でサマエルに訴えかける仁。思わず頭を撫でてしまう。
「ユキの主はジンだろう?」
「…ええ…そうだけれど…」
言ってから、サマエルの手が届かない位置まで離れる。
「…ユキちゃん、出て来て…」
仁の影からユキが出てくるのを見て確信するサマエル。影に入り込むのは闇属性のモノにしか出来ない。
「サマエル、ままを困らせないで!」
出てくるなりサマエルを威嚇するユキ。ちょっと面食らうサマエル。
「…驚いたな…念話も言葉も使えるのか。…悪かったな…」
「駄目よ、ユキちゃん。サマエルは、ままの事を考えてくれたのよ?」
「それでも、ままに悲しい顔させるのは許せないもん!」
「可愛い…。んもう…ユキちゃんたら、ありがとうねぇ…」
ぎゅうっとユキを抱き締めて嬉しそうに笑う仁。同じく嬉しそうに仁にじゃれつくユキ。
「…何というか…ジンの従魔って感じだよなあ…」
苦笑するサマエル。
この獣は闇魔法で召喚された”種”であったとは到底思えない程、綺麗な魔力を纏っている。そして純粋にジンを慕っている。恐らく初めて取り込んだ魔力がジンのモノで、その後もジンの魔力を糧にしつつ共に居た事で性質まで似たのだろう。前例を聞いた事は無いが、納得は出来る。
「…どういう意味よ…」
「そのままの意味だ」
誰かに言われる度に同じやり取りをしてしまう仁。
ユキに危害は無いと判断した仁は、やっと緊張を解いた。
「サマエル…」
「ああ、間違いない。本当の”種”はユキだ。だが、その性質は闇でありながら異質な存在のようだ。ジンの魔力を喰らい、ジンの魔力を纏っていた事で、その本質までもが お前と同じように成長したんだろう…。その上、常に共に居たせいでソケネも勘違いしているんだろうな」
「…質問。”種”と器は同じなの?魔核に肉体を与えるのは、どっち?」
「”種”が成長したモノが器と言えるかね…。器は要求に見合う生き物なら別に何でも良いが、”種”は魔核に入り込んで肉体を具現化していく。…今回ソケネはお前の魔力に目が眩んで他が見えていない感じだな。まあ、もしお前を器にされてしまったら…それこそ最悪な事態になるだろうがな…」
仁は自分の手の平をまじまじと見る。
「…あたしの魔力は多いと思うけれど…そんなに…?」
「初めてお前を見た時は、その純粋さに驚いた」
「純粋…?」
全く自覚の無い仁には、理解出来ない。
「純粋な力は、ソケネのような目的を持つ者には垂涎の代物だ。それに魔力量もたっぷりとある」
「あなたに会ってから使い方を変えたの…。今は、ソケネに負ける気はしないわ…」
「…だからと言って、軽々しく自分を犠牲にしようとするな。正直、オレはあいつに同情出来るぞ」
仁はユキを抱き締めたまま、目を泳がせる。
「…だって…」
「自分を顧みずに何かを成そうとするな。身勝手な自己犠牲なんか払ってみろ。どんなに強い信頼関係があっても、一瞬で無くなってもおかしくない。増してあいつは一人で幾百もの修羅場をくぐり抜けてきたという自負心も誇りもあるだろうしな。…お前はあいつに愛想尽かされても良いのか?」
「それは絶対にイヤ!」
サマエルの問いかけに、仁は食い気味に返した。
「…まあ、お前を生贄にソケネをってのもアリなんだがな。だが、絶対にしないし させない。オレはお前を気に入っているし、あいつにとってもそうだろうからな」
「…わかったわ…。勝手な事はしないように気を付けるわ…」
サマエルはため息をついて、もう一度 仁の頭を撫でてから「ゆっくり休め」と言って部屋を出ようと立ち上がった。
「あの…待って…。もう一つ聞きたいの…」




