召喚魔法とユキ
ネイサンはサマエルを見ている。その目はサマエルの真意を探るべく、深く穿つような鋭さを持っていた。それを受けるサマエルもまた、ネイサンを測るように見ている。
仁は口出し出来ない雰囲気に押し黙り、四将もただ黙って待っている。
「土地の浄化と言うが…相当な事だぞ…」
「ああ。オレたち全員の魔力を注ぎ込む。オレたちは…上手くいけば魔核に戻るかもしれんが…この世から消える確率が高いだろうな。だが、土地の浄化は出来る」
「ソケネはどうするんだ?」
「…それも何とかするしかないだろう?昔ならいざ知らず、今のヒト族ではどうしようもないからな」
サマエルはため息を付きつつソファに凭れた。随分と疲れた顔をしている。
四将たちには、ソケネと対峙するよりも浄化を頼みたい。それには何とか自分でソケネをどうにかするしかない。
「正直、俺の範疇を越えている」
ネイサンが言う。
「だが、ソケネと魔王の核が野放しになるのは困る。ソケネを消滅させる事が出来たなら、協力出来る事はしよう」
「…助かる」
ネイサンとサマエルは目を合わせ頷き合った。
「とは言っても、どうするつもりなんだ?」
四将の筋肉が聞く。
「残念だが、今はいい案がない」
そう言いながらさりげなく仁を見るサマエル。仁はじっと動かずにネイサンの従者に徹している。
「…その器、使えないのか…?」
「駄目だ」
灰色が仁を指差して言う。サマエルが即答すると、仁が動かないまま念話を送って来た。
『あたし…器になる振り、出来るかしら…?』
『お前…それはネイサンに言うなよ?』
『…さっき…サマエルが来た時…せんせーに言って叩かれたの…』
サマエルは薄目でネイサンをチラと見て息を吐く。
仁がソケネに対して何かやらかす気がしたのは間違いなかったようだ。
『お前は本当に馬鹿だな…。少しはそいつの気持ちも考えてやれよ…』
サマエルに言われて、仁はそっとネイサンの表情を伺う。
何を考えているのか、腕を組んで黙考している。
『…あたし…少しでも何か出来たらって…。ごめんなさい…』
『オレに謝っても仕方なかろう?』
サマエルにサクッと言われて、シュンと俯く仁。
部屋の中が沈黙に覆われて、みながそれぞれの思考に沈んでいた。
*
気が付けば、外は暗くなっていた。
サマエルはネイサンと仁に泊まるように言い、軽い食事を取った後に二人を隣り合った別々の部屋に案内した。案内された部屋はどちらもホテルのスイートルームのように広く、仁は気後れしてしまう。
「ねえ、もっと小さい部屋はないの?」
何故か一緒に入って来たサマエルに聞く。
「離れとはいえ王宮の一室だぞ?これでも小さい方だ」
「…そうなの…?」
「ああ。それよりも…あの従魔はどうしたんだ?」
サマエルからユキの話が出て驚く仁。
「…あぶないから隠れているけど、何で?…」
「会わせてくれ」
「何故…?」
「…お前からは”魔力の種”を感じないが、あの従魔からは感じた。確認したい」
「”魔力の種”って、なんなの?」
ハッキリとした警戒を向ける仁。
一筋縄ではいかないか…こいつの保護欲は半端ないよな…。
サマエルはソファに腰を下ろして、仁にも隣に座るよう促した。
「…召喚魔法を知っているか?」
仁はビイナとオルを思い出して頷く。
「忘れられた魔法の一つだって聞いたわ」
「ヒトの世界ではそうなのか。…そうだな。今のヒトの魔力量では、使えない魔法は多いだろうな。まあ、それは良いとして」
サマエルはソケネの使った召喚魔法について話す。
「召喚にもいくつか種類があってな。
良く使われていたのは使役目的のモンスターを呼び出すものだが、ソケネが使ったのは闇魔法で魔力そのものを召喚するものだ。これは強力な魔力が凝縮されたモノを生み出す事が出来る。
呼ばれたモノは“魔力の種”と呼ばれ 同じ魔法陣内に置かれた対象に埋め込まれると、魔力強化や肉体改造や成長促進など術者の意向に沿った形で促成する。
最も、この成長率は術者の力量や”種”の性質によって大きく変わるがな」
「…使わなくても核から復活するんでしょう?」
「する。いや、この通りしたが、とんでもなく時間が掛かった。まさか五百年の歳月が経っているとは思わなかった」
サマエルは本気でうんざりした顔をして仁の右頬に触れた。その触れ方は優しく、仁も気にしないのかそのままだ。
「ボロボロになって飛ばされたソケネは、まず自分を復活させてから より完璧な形で魔王を復活させるつもりだったんだろう。だが…」
「想像以上に時間が掛かって焦った?」
「さてな。だが、同じく五百年を待つ気にはならんだろうさ。だからこそソケネは地味に魔力を集めつつ、最上の”種”を召喚する為の最高の時を待った。そして満を期して召喚したが…何かの干渉があり魔法陣に現れるはずの“種”が、顕現すべき場所に現れず遥か遠方に気配を顕わした」
「…それがユキちゃんだって言うの…?」
「フウツで感じた。それを確認したい」




