サマエルの話
「…相談…?」
「ああ。ヘタな奴に話すよりも、あんたに話した方が早そうなんでな」
ネイサンはサマエルを見据えて観察し、漸く警戒を解いて剣を鞘に納める。
それに気付いた四将たちもソケネから離れてサマエルの後ろに並び、仁はネイサンの横に立つ。
「…で?」
五人の魔族を目の前にしても動じないネイサンに、なかなか度量のある男の様だと好感を覚えるサマエル。元より対等な立場で話そうと考えていたので尚更だ。
「ソケネを消したい。協力してくれないか」
「…それは、俺に言うよりもジンに言うべきだろう…。こいつの自己犠牲精神には頭が下がるぞ?」
「せんせー、ちが…」
ネイサンに反論しようとする仁。だが無視される。
「いや、誰もが認める”英雄ネイサン”。オレたち魔族やポッと出の冒険者なんかには無い、信頼と名声、実績があるあんたの協力が必要だ」
ネイサンは「厄介な事だ…」と言いつつ、それでも興味の方が勝る自分自身に苦笑する。
「話はすぐに終わるのか?」
「そうだな…。確かにここではゆっくり話せないな…」
サマエルはソケネを見てから、仁を見る。
「あれは動かせるのか?」
「…動かせるわ…」
「そうか。なら一度アメカーヤの城に移動するか?ソケネがこのザマだからな、今は一番安全と言えば安全だが。…もちろん、移動先はあんたの言う場所で良いぞ?余程の辺境でない限り、近隣一帯の国は大体は把握しているからな」
ネイサンは少し考えてから答える。
「アメカーヤには、他にも魔族がいるのか?」
「もう一人いる」
『ジン、もし契約の件を話してしまっているなら もう一人のヤツも契約に囚われているとネイサンに伝えろ。それから契約については黙っていて欲しいとも』
『…わかったわ…』
わざわざ念話を送って来たサマエル。他の者には知られたくないのだろうと、仁はそのままをネイサンに念話で送る。ネイサンは眉をしかめたが小さく頷いた。
「ソケネを除いて六人しかいないのか」
「ああ。今、この世界には魔力が少ない。先の戦いで魔核となって生き永らえた者も、多くは生き物の形にすらなっていないだろう。オレですら最近まで完全には自由が利かなかったし、こいつら四将はようやく自由に動けるようになって今さっきオレの所に来たばかりだ」
「…むざむざと敵地に乗り込むのも何だが…アメカーヤに行くか…」
ジンのように信じられるかと言われれば否だが、少なくとも謀を企てているようには見えない。どの道、いつまでもここにソケネを置いておくわけにもいかないだろう。ネイサンは先を考えて答えを出した。
「よし、なら行くぞ。ジン、悪いがソケネを頼む」
サマエルは仁の準備が整うと、全員をアメカーヤに移動させた。
移動した先は城の奥庭の一角、偶然にもソケネがイーチェを置いていた小さな離れの一室だった。以前は美しかったのだろう荒れ果てた庭園の様子に仁の心が痛んだ。
落ち着いた内装の応接室の中、ソケネは万が一 結界を破った場合に少しでも足止めになればと 四将が部屋の隅に展開した時止めの魔法陣の上に置かれた。
そして、それぞれがソファや椅子に座ると四将の内の年寄りが慣れた様子でお茶を用意し始める。その間、皆が無言でソケネを見ていた。
殆ど音のしない見事な給仕で振舞われたお茶は、仁がこの世界に来てから一番美味しかった。もちろん茶葉も良いのだろうが、入れ方も完璧だった。
仁が「すごく美味しい」と嬉しそうに言うと、年寄りは微かに笑って返してくれた。
年寄りが座って落ち着いた所でサマエルが話し出す。
「…まず…オレとここにいないもう一人は前の魔王の時代からこの世に存在している。この四将はじいさんを除いて、今、魔核になっている最後の魔王が生まれるより少し前に生まれた者たちだ」
最後の魔王…それが魔核となってから五百年は経っている。その前と言うのは、一体どれほど前なのか…
「オレたちは基本的に念話を使うから、名は必要なくてな。適当に呼び名を使っている。オレは一位と呼ばれるし、こいつらは…適当に、じいさん、筋肉、ヒョロ、灰色とか呼んでる」
サマエルは一人一人、指を差してネイサンと仁に言う。
確かに特徴を押さえているが、もうちょっと何かないものなのか…?ネイサンは灰色と言われた男のフードの色を見て思った。
「これはオレがここに来てからソケネ自身に聞いた話だが…戦いに負けて終わりを迎えるはずだった魔王は、ソケネに課した契約に依ってその命を永らえさせた。
曰く、性根の腐り切った魔王は己が倒されそうになった時に 消滅しないようにソケネの中に己れの魔核を移動するようにしておいた。…これはオレの推測だが、ソケネをそのまま手足にするか乗っ取るかしようとしていたんだと思う。
しかし実際にそうなった時、ソケネの体は魔王の力に耐えきれずにボロボロになって使い物にならなかった。元々の魔力量が違い過ぎて器にならなかったんだろう。ソケネは核を守る為に闇に入り、王の復活の為に魔力の回復を待ち続けたそうだ。
余談だが、愚かな王は全ての魔族の魔力を取り込んででも消えたくなかったようでな。戦いの最中にも呑まれてしまう魔族が多く居た。
オレたちも魔王が倒された時に全ての魔力を奪われる所だったが、奪われる前に示し合わせて極限まで魔力を放出してから眠りについた。でないと、後々 馬鹿を止められる者がいなくなってしまうからな。…何で魔力を放出したか?魔王の縛りから解放されるのに一番手っ取り早かったからだ。
話は飛んで今から七年ほど前だ。
”数年の間に魔王を復活させるから、動ける者は馳せ参じろ”というソケネの思念が飛んできた。ある程度動けるようになっていたオレは慌てた。何しろオレ以外で動ける仲間がいなかったからな。何とか一人見つけ二人見つけと…漸くここに居る五人と連絡を取る事が出来た。
あと、ソケネ寄りの上級魔将の三人とも連絡を取ったが これは勝手に事を起こされない為だった。もちろん、ソケネの指示に従う前に消すつもりだったんだが…あいつらは自業自得で消えた」
サマエルは話を切ると、意味ありげに仁を見る。
「さて。前置きが長くなったがこれからが本題だ。知っているだろうが、アメカーヤはソケネの長年の支配によって闇に侵された状態が続いている。国民が正常な状態に戻る可能性はもう既に無い。オレたちは、支配されたアメカーヤの住人を全て消し、汚染されたこの地を封印した後に浄化をする。…その為にここに居る。最後の尻拭いってやつだ。…で、あんたにはその為の根回しを頼みたい」




