サマエルとネイサン
兵士たちがある程度回復したのを確認して、再びソケネの元に戻る二人。ユキは万が一の為に仁の影に戻らせた。
果たしてどうなっている事やら…不安に思いながら仁はネイサンと警戒をしつつ近付く。
仁の結界は、最初に張ったモノがだいぶ薄くなっていたが後に張った二つの結界は無事に機能していた。
ほっとする仁を尻目に、ネイサンは改めて仁の魔力の強さを目の当たりにして何とも言えない表情をする。ネイサン自身の結界がソケネに簡単に壊された事を思えば、複雑な気持ちにもなるだろう。
「…今は、どんな風に見えているんだ?」
ふいに聞かれた仁は、まじまじとソケネ入りの結界を見る。
真っ黒いのは変わらないが、微かに何かが蠢いているように見えた。
「…真っ黒いのは変わりませんけれど…何かが蠢いているのはわかります」
「俺から見ると、相当な魔力を使って疲弊しているように見えるんだが…そうか。そこまで消費したわけでもないのか…?」
仁は更に結界を重ねてソケネを逃がさないように強固にする。
そして、ネイサンと目を合わせずに自分が「出来る”かも”しれない」事を話してみた。
「…せんせー、あたしに…ソケネの言う器になる振りって出来るでしょうか…」
「お前…」
「…だって…ソケネから魔王の核を奪うにはそれが一番早いですよね…?」
「本気でそう思っているなら、俺の目を見て言えるだろう?なんで逸らしてるんだ?」
言われても、仁はネイサンを見ない。…見れない。
絶対にどうにか出来る自信があるわけではない。更に言えば今のソケネを開放したが最後、荒れ狂ったまま暴走する確率の方が高い気がする。このまま消してしまえば早いのだが、それではサマエルの言っていたように”魔王の核と共に”どこかに再生されてしまうのだろう。だから、どうあってもソケネから魔核を奪いたい。
…あたしが結界に入ってソケネと対峙した方が被害は少ないと思うけど…
何故か今はソケネに負ける気がしない。けれど、もし自分が倒れてしまったら?
強固な結界を張っておけばソケネと魔核が何処かに飛ばされるのを防げる?魔族が魔核になる原理もわからないのに?それにその後はどうするの?サマエルに委ねるしか出来ないじゃない?
仁の頭の中がグルグルと、たらればの世界に引き込まれていく。
パンッ
「…?」
突然、右頬に衝撃を受けてよろめく仁。ネイサンが今まで見せた事の無い冷ややかな目で見ている。
「お前は師匠の所に戻れ。死にたい奴と一蓮托生になるのはごめんだ」
「…!」
次第にヒリヒリと痛みを増す頬。ネイサンの冷たい目。
せんせーに嫌われた…?あたしがハッキリしなかったから?
全く見当違いな思考に嵌まった仁の目から涙が零れ出す。
「あ…あたし、戻りません…!残って…ソケネを…魔核をどうにかします…!」
ネイサンはため息を付くと、怒鳴りつける為に息を吸った。この自己犠牲を厭わないバカ弟子をどう叱りつけるべきか…。
その時、空間が歪んで何者かが現れた。
「よう、ジン。何で泣いてんだ?」
「え…?サ…」
『名を呼ぶな』
突然、現れた魔族が五人。
小柄で見るからに年寄りの男、大柄で筋骨隆々の男と細身の男、頭からフードを被って風貌の分からない者。その先頭に居たサマエルに驚いて名前を呼ぼうとしたら念話で抑えられた。
魔族の出現に、ネイサンは剣を抜く。慌ててネイサンの前に出て止める仁。
「待って…待って下さい。せんせー、このヒトがあたしの言っていた魔族なんです…!」
「…信頼出来る魔族、か?」
「はい」
ネイサンは剣を下ろすが、戦闘態勢は解かないし魔族たちからも目を離さない。
仁の方はサマエルに捕まって頬の腫れを治されていた。「あたしが悪いの…!このままで良いのよ!」と抵抗したのだが、見る間に腫れあがっていく頬を見過ごせなかったようだ。
「…妙に仲が良いじゃないか…」
サマエルの連れて来た者の一人が面白くなさそうに言う。
「おお、すまん。こいつが、ソケネの追っている”種”でな。…まあ、ソケネとは質が違い過ぎるし まず”種”では有り得ないと思うが。…それは良いとして、だ」
ネイサンの前に立つサマエル。
「そう警戒するなよ。オレは魔族で、上級魔将の序列一位にいるモンだ。こいつらは上級魔将の下に付いている魔将で通称、四将と呼ばれているオレ側の奴らだ」
「…ジンが世話になったようだな…」
サマエルはネイサンを挑発するような笑みを浮かべて仁を見る。
「なかなか居ないぞ、あんなのは。少しは可愛がってやれよ」
二人の間に剣呑な空気が流れそうになったが、小柄な男の声に意識が行く。
「信じられませんな…あのソケネがこうも簡単に捕まるとは…」
「この結界も普通ではあり得ない…」
四人は仁の結界の周りに集まって話している。
どうやら仁の結界は魔族から見てもあり得ないモノらしい。
「魔核さえなければ、このまま潰せるのにな…」
フードを被っているのも男だったようだ。体格に合わない太い声をしていた。
みな悔しそうな顔をしてソケネ入りの結界を見つめている。それを見つつ仁はサマエルに聞く。
『サマエル…何でここに…?』
『あー…何か、お前がやらかすような気がしたんでな…。その前に来た』
魔族にまで「やらかす」と言われてしまう仁。その通りなのだが、腑に落ちない。
『どういう意味よ…』
『そのままの意味だ』
口の端を上げて軽く笑うサマエルだったが、すっと手を動かして辺りに障壁を張った。そして未だ警戒を解かないネイサンに向き合う。
「この辺り一帯を閉鎖した。ちょいと相談があるんだが、良いか?」




