ライラと決着
ブックマークありがとうございます。
今回は少し早い時間に更新できました。
ネイサンの問い掛けに仁は答える。
「そうだと思います。ただ、自分には契約があるから自由に動けないと…」
ネイサンの顔が更に渋くなっていく。
仁は、もし自分が弟子にこんな事言われたらどうするのかしら…冷静に返す自信、無いかも…と考えて話すべきじゃなかったかと既に後悔し始めている。
ソケネを包んだ結界は、まだまだ大丈夫そうだが…仁の考えている通りにするなら、この怒り狂ったのを外に出さなくてはいけない。そうしたら…セルゼはただでは済まないだろう。話して、ネイサンの知恵を借りたい。それが仁の願いだった。
「…まさか原初の呪いじゃあるまいな…。いや、魔族は卵生ではないはずだ。…違うよな…」
ネイサンがぼそりと呟いた。
原初の呪い…?
仁は首を傾げてネイサンを見るが、自身の思考に没しているようだ。
『サマエル…あなた、卵から産まれたの?』
*
「ぶっふぉ…」
自室に戻っていたサマエルは、また突然来た念話に吹いてしまった。
いきなりの質問に驚いたのだ。
こいつ…本当に何だってんだ?面白過ぎるだろうが…
サマエルは考える。言うべきなのだろうか。いや、今はまだいいだろう。
『お前、さっきから何なんだよ?オレが何だって?』
『卵から産まれたの?って聞いたの』
同じ事しか言わねえ…
頭を掻いてどうしたもんかと考えて、まあ、種族がバレる訳じゃないから良いか…と落ち着く。
『…そうだ。オレは卵生だった。それで?何の意味があるんだ?』
『ごめんなさい。ありがとう。また後で連絡させて…』
「おいおい…」
またかよ。言うだけ言って切り上げやがって…あいつ…今度会ったらどうしてやろうか…。
片手の拳を手の平に打ち付けたサマエルの顔は実に楽しげである。
*
「せんせー、卵生だって…」
仁は未だ黙考しているネイサンに、ぽそりと呟いた。
小さな声だったが、それはネイサンの耳に届いたらしい。随分と効果があったらしくネイサンの思案顔がニヤリと…ちょっと悪人顔っぽくなった。そんな顔も良い…とうっとりする仁。
「これ、どうにか出来ないか?」
ソケネを指差すネイサン。
「どうって…どうしたら良いんですか?」
「このまま置いておいて結界は持つか?持つなら少し移動して隠せないだろうか」
仁は言われた通りに結界を移動して周りに迷彩をかける。ネイサンも感心して迷彩の原理を覚えていた。その後、門に戻り切り株もどかす。
「…よし。一先ず、あいつと決着を付けるぞ」
「はい。ユキちゃん、行きましょ」
「頑張るー」
ユキは大喜びで二人と戦地へと向かう。
ネイサンたちが最初に通行門に現れてから、まだ十五分も経っていないのだが立っている者は殆ど居なかった。
仁は自分の知っている顔はないかと周りを見る。幸いにもいなくて少し気が楽になった。
ガインッ
ネイサンとライラ…が剣を交える音が響いた。
「ユキちゃん、せんせーのサポートお願いね」
ユキはグルルと啼いて仁から離れネイサンの元に行く。
仁自身は酷い負傷者を見つけては治しつつネイサンの動向を見ていた。
ライラ…と言うには少々グロテスクな様相になっているが…は力の源であるソケネを結界で囲んでしまったからなのか新たな魔力の供給が無く、ネイサンとユキの連携にどんどん追い込まれていっている。
「ライラ、これで終いにしよう」
ネイサンはボロボロになったライラの首を掴み、正面から一気に腹を突いた。
ネイサンの直感が、フウツで仁が狙った場所と同じ場所を狙わせたのだ。
断末魔さえもなく、砂のように崩れ落ちるライラ。
ネイサンの手には、ライラを討ったという手ごたえが残った。恐らくはこれでライラと戦う事は無くなるだろう。…ソケネが何かをしていない限りは。
ネイサンはビイナ宛に「ライラを倒した」と書簡をしたためたが、ソケネの事は書かずにおいた。それを仁が受け取ってペアバッグに入れる。そして共に負傷者を確認していく。
小一時間も経った頃、仁たちが負傷者を確認し終わり休憩を取っている時に飛龍が二頭飛んできた。
ビイナからの返信で「必要ないというのにサイラスが迎えをやると聞かない。申し訳ないが適当に追い返してくれ」とあったので、それだろう。ネイサンと仁が出迎えると…なんと皇帝サイラスその人が乗っていた。
呆れた顔で頭を振るネイサン。
これまでもこういった距離感の無い行動をされて閉口する事があった為に、なるべく皇族と付き合わないようにしてきたのだ。
仁は仁で、どんな対応をしたら良いのか分からずにネイサンの後ろで大人しくしているしかなかった。
「ネイサン!迎えに来たぞ。城に戻って話を聞かせてくれ」
実に嬉しそうな顔で言うサイラス。
「…いえ、申し訳ありませんが…まだやる事が残っていますので…」
ネイサンの言葉に、あからさまに肩を落とすサイラス。従者であろうもう一頭の飛龍に乗っていた騎士が軽くため息を付く。
「…皇帝陛下、ビイナ様も仰っていたでしょう?ネイサンの仕事はまだ終わっていないから、迎えは早いと…」
「…しかしだな…」
「皇帝陛下」
叱咤するような響きに、サイラスは嫌々ながらに頷いた。
「わかった。ネイサン、すまなかったな。だが、事が済んだら一度じっくりと話を聞かせてもらいたい。構わないだろう?」
「…そうですね…時が来ましたら…」
ネイサンの答えに渋い顔をするサイラスだったが、騎士に急かされて不承不承に戻って行った。その様子を見送ったネイサン。
「…全く…何しに来たんだ?」
「皇帝陛下、も、せんせーが大好きなんですねぇ…」
馴染みの無い「皇帝陛下」という呼称が言い辛くて、噛んでしまう。
「厄介な事に、昔からチョイチョイ絡もうとしてきてな…」
肩を竦めて見せるネイサン。滅多に見ない仕草にキュンとする仁であった。




