アメカーヤのサマエル
セファ国が落ち着いた頃、アメカーヤ国ではソケネが面白くなさそうに楕円のテーブルの中央に置かれた水晶を眺めていた。隣にはライラが立っている。
セファに乗り込んだ時に兵たちの何人かに埋め込んで来た遠見の目を通して、セファ侵略の様子を見ていたのだ。なのに、だ。蠢く者の映像が来たと思ったら、一瞬で全て見えなくなった。
気に食わない…実に不愉快ですねえ…
それにしても三人の魔将の気配が無いのは、一体何故なのか…?さすがに、たかがヒトに何かが出来たとは思えないのだが。
「三人の魔将が見つかりません…あなた方は、動かないのですか?」
ソケネは目の前に座る二人を見た。
一人は緩くうねる黒髪を後ろにまとめた序列一位の男の上級魔将で、もう一人は腰まで伸ばした黄金の髪を持つ序列二位の女の上級魔将だ。
「何で、この程度の事でオレらが動くんだよ。じい様、ちょっと調子に乗ってんじゃないか?大体オレに命令する立場に無いだろうがよ」
「全くだわ…。魔王様の復活と、聞き及んだからこそ無理を押して来たのに…未だ魔核のままで肉を得てもいなかったなんて…」
「…それは…ですが、一位はセファを片付けるはずでしたし…」
「あれな…つまんねぇから、やる気失くした。あいつら三人で十二分だろうが」
「その三人の行方が分からないのですが?」
「そんなの、私たちの関与することじゃないでしょ…」
二人に冷たく軽蔑された目を向けられて口ごもるソケネ。
少し前に現れた女魔将は、その魔力を隠す事も無くアメカーヤの中心に降り立った。おかげで国に残っていた国民がだいぶ減ってしまった。しかし、この二人はソケネの魔力などは足元にも及ばないので強く出る事も出来ない。
ソケネの予定では、この二人も自分の意のままに動くはずだった…少なくとも前はそうであったのだが…主が不在の今はあからさまに自分の方が格下に見られている。
全く…何もかもが上手くいかない…
「…全てが計画倒れでは…目も当てられませんね…。早く種を…器を連れて来なくては…」
「おお、待ってるぞ」
ソケネは苦々しい顔でライラを連れて部屋を出て行った。
残った二人は座ったまま動かない。ソケネがだいぶ離れたのを確認した後に言葉を交わす二人。
「お前、身体は良いのか?」
「…魔核から肉を得るまでにだいぶかかった…。まだ、魔力の抑制が上手くない…。貴方は…?」
「問題ない」
言いながら、フウツで貰い受けた魔力を思い出して微かに微笑む。
「さすが…」
「まあな。だが、こんなに長くかかるとは思わなかった」
「全く…。こんなにも魔力が弱い世界になってしまった…。あの頃のままだったら、とっくに回復していたのに…」
「…それは、世の均衡を乱したをオレらのせいだな」
「…ふん…愚かな家臣に踊らされた、バカな王…」
二人の魔将は魔王の復活を喜んでいるようには見えない。
「…もうじき四将が来るはずだ。そうしたらこの地に封印の結界を施して土地の再生を促そうと思っている。この国の全てが闇に汚染されているからな…」
「…そんな事したら…みんな魔力が無くなって、また初めからになる…。あのじじいの息の根を止めてからでないと、ダメ…」
「…勝手に締結された契約が痛いよなあ…。魔王の魔核を持つ者を守る、なんてのは知らなかったぞ。まあ、幸いにも”守る”だけで従えとかは無かったからな」
「そもそも、私と貴方は契約した覚えが無いのに拘束されている…おかしい…。何で…私たち、拘束されたんだろう…?」
「…まあ、その辺は…何とかなるだろうが…」
「何とか、なる?本当に?」
「…ああ。今、じい様が追っている種がな…面白いんだ」
「会ったの?」
「会った。三魔将を消した奴を見に行ったら、そいつだった」
サマエルは仁の事を思い出して、優しい笑みを浮かべる。
「貴方がそんな顔するの…初めて見た。気持ち悪い」
「ひでぇな」
訝し気な女魔将を笑い飛ばすサマエル。どうやら名前の事は言わないようだ。




