桁外れな二人
評価ありがとうございます。
ちょっと時間が出来たので更新しました。
大体、深夜に一日おきに更新しています。拙いですが、宜しくお願いします。
暫く後。
ネイサンを連れて戻った仁は、魔力で透明な足場を作りあげて上空からセファ軍とセルゼ軍が撤退していくのを見ていた。
「アメカーヤの連中はソケネに攻撃しろと指示されて忠実に動いているようだ。攻撃に対して全く防御もしない事から考量すら出来ないと推測出来る」というネイサンの指示で 曇りガラスのように可視化した結界を三枚、塀のように平地の端から端まで張り それぞれ平入り虎口のように空間を開けてある。
虎口は一か所だけでなく間隔を置いて互い違いになるように何か所か開けてあり、セファ・セルゼ軍はアメカーヤ兵を誘い込むようにその結界を抜けていく。
ネイサンの思惑通り、何故かアメカーヤ兵は前進して結界に遮られると そのまま張り付いて攻撃らしき動作を続けるだけでセファ・セルゼ軍が入っていく虎口には向かわない。
そんな状況の中で、二人の豪傑が三枚目の結界を守っていた。
無論、ネイサンとビイナである。
最後の結界の虎口に入れたアメカーヤ兵は、ネイサンとビイナが容赦なく倒していく。
夕刻、数時間をかけて撤退を完了したセファ・セルゼ両軍は固唾を呑んで前方の結界を見ていた。アンデッドのようなアメカーヤ兵が、半透明な結界の向こうで蠢いているのが分かって気味が悪い。
そこへ空から飛んで来たかのように、一人の男が軽い仕草で降り立った。見た事も無い従魔を伴っている。
三人は結界の向こうを見ながら、何かを確認していた。
後から来た男がこちらを向き、セファ・セルゼ軍の目の前に新たな結界を張った。
なるほど、あの巨大な三枚の結界を作ったのはあの男なのか…。兵士たちの驚きの声がさざ波のように広がっていく。
生きた伝説と言われる冒険者ネイサン、魔導魔術の最高峰ビイナ様と肩を並べるあの男は一体何者なのか…三人はこれから何をするつもりなのか…
両軍は「作戦変更。一帯に結界を張るので、撤退してくれ」とだけ知らされており、詳しい作戦は聞いていない。みな、この地獄絵図のような状況から逃げ出したい一心で命令に従ったのだ。
見ていると、冒険者ネイサンと従魔が可視化された結界から数歩後退した。
ビイナ様と男はそのまま残り、ネイサンが離れたのを確認してから結界に向き直った。
*
これから何が起こるのかと、固唾を呑んで見守る兵士たちを尻目にビイナと仁は最終確認をしていた。
「取りこぼしは無いな?」
「はい、大丈夫です。…それより…何か…凄く見られていて恥ずかしいです…」
「こんな時にそれか?余裕だなあ?」
「だって…」
まさかビイナたちがこんなゆるい会話をしているとは思わないだろうが、これがこの二人なのだ。
「じゃあ、可視化した結界を解きますね」
既にアメカーヤ兵の張り付いた三枚の結界ごと自分たちを覆う様に、新たな結界を張っている。二人の魔力がどの程度の火力になるか分からなかったので、ネイサンにはその新たな結界から出てもらった。
新たな結界は、自然への被害を最小限に抑えたい仁の優しさだ。ちなみにセファ・セルゼ兵の前に結界を張ったのは、ビイナ曰く演出の一つでもあるらしい。
「ああ。上手くいくと良いな」
「ビイナさんと一緒ですもの。上手くいきますとも」
「…それもそうだな…」
言いながらも、こいつがいなかったらやらなかったがな…と心で呟いた。
「…解きます」
仁が言った瞬間に三枚同時に結界が消えると、結界に溜まっていた何千というアメカーヤ兵が一斉に向かって来た。
結界に守られているとはいえ、震えあがるセファ・セルゼ兵。
今、兵士たちの心を支えているのは二人より少し離れただけの場所で気負う事なく自然体で佇むネイサンである。
あそこにネイサンが居る限りは危険ではないはずだ!と鼓舞し合ったのだ。
どおおおぉおおぉん……
激しい音と振動、閃光、炎と煙幕で一帯の視界が遮られた。
ずっと見ていたはずの両軍の兵は、それでも何が起こったのか分からずに呆気に取られていた。
ネイサンを見れば、従魔と共にゆっくりと二人の方に戻って行っている。
良く分からないが、成功したらしい…!
セファ・セルゼ兵は歓声を上げ始めた。
何が何だかわからないが、とにかくあのアンデッドもどきが全て消えたのだ!
思わずネイサンに駆け寄ろうとした者たちが、結界に阻まれ痛い思いをして笑い合っている。
ネイサンはそんな兵たちの様子など気にする事も無くビイナたちの元に寄った。
「…凄いな…」
もう、その言葉しか出て来なかった。
「ふふん。まあ、こんなモンだ」
「上手くいって良かったですよねえ…」
ふと、二人が手を繋いでいるのに気が付くネイサン。
「なんだ?仲が良いな…」
少しばつの悪そうな顔をするビイナ。仁に少し魔力を貰っていたのだ。
「…ちょっと、張り切り過ぎた…」
「ああ、なるほど。…ジンは大丈夫なんだな」
「こいつは魔力の源が自身の中だけじゃないからな…。こういう昔からの自然が残っている場所では特に顕著だな。わしもいつもよりは相当ラクに使えたんだが…思い切り魔法が使える時は少ないからな…ちょっとやり過ぎた」
思い切り魔法を発動出来たビイナは、上機嫌でネイサンを迎えていた。
ネイサンはしみじみと二人の放った魔法の痕を見る。
可能な限り渓谷の自然とアメカーヤ兵のギリギリのラインで張られた結界内部はアメカーヤ兵と最小限の木々や山肌を何の痕跡も残さず焼き払ったが、それ以外の場所は無傷で残っていた。地面さえも結界内の五センチ程しか抉れていない。仁は木の根も傷つけないようにしたのだ。
仁が上から見ていたのは、このギリギリの結界を張る為だったようだ。
「…せんせー、ビイナさん。アレ、どうしたらいいんでしょう?」
「アレ?」
二人が仁の指差す方を見れば、セファ・セルゼ兵たちが結界を叩いてネイサンに何かを訴えていたり踊っていたりと喜びのあまりに混沌とした状態になっていた。




