仁、ライラと戦う
仁はビイナの元に走るが、ネイサンが居ない。魔力を探ると近くにいるが少し弱っている感じがする。
サアーッと血の気が引き、さっきまでの己の行動を呪う仁。
「ビイナさん、せんせーは?」
「ちょっとしくじった。今はルーの奴が守っている。お前さんが呼んだんだろう?」
「…ええ…来てくれたのね…」
確かに仁はルアフを呼んだ。
ネイサンの危機に加勢しないのはおかしいと、殆ど無意識な呼びかけだったのだが。
ビイナと二人、再生を繰り返すライラを攻撃しながらユキをネイサンの元に向かわせるが すぐに声が届く。
「ままー!せんせ、怪我してるのに…」
「うるさいぞ、ユキ」
ザザッとユキとネイサンが走って来た。ネイサンは左腕からひどい出血をしているが、その傷をルアフが必死に抑えている。
『…ジン…生意気だけど今回は感謝する…』
見える者には、今のルアフの姿はネイサンの腕を包む風の輪に見えるだろう。
若干、動きづらそうではあるがネイサンの闘気は全く衰えていなかった。
ネイサンの姿を見て、元気を取り戻した仁はライラを見据える。
「せんせー、ビイナさん。あたしには、この人との柵は何もありません。だから…ここは任せて下さい…」
「…ジン…?」
ネイサンに貰った剣に魔力を流す仁。それを見る目は、やはり妙な色気を感じさせる。ビイナが思わず凝視してしまった程度には。
「ジン、相手はヒトだ。…お前さんには…」
「…ライラさんは…もうヒトじゃないんです…」
仁の、元の世界の倫理観が無くなった訳ではない。
ヒトで無ければ切って良いとは思ってはいない。けれど、ゴブリンやオーク、ミノタウロスのような二足歩行のモンスターを倒して行くうちに…自分の命を守る為に剣を振るう内に、少しずつ 守るべき秩序が変わっていった。この世界の原理、法則性に馴染んだと言うべきかもしれない。
「…ネイサンが真っ二つにしても瞬時に再生して攻撃された。気を付けろ」
「はい」
悲し気な顔でビイナをチラと見た仁は、ライラに迫った。
仁の魔力に押され結界の盾を張るライラ。しかし、力の差は歴然。
結界ごと袈裟切りに切られたライラだが、また再生した。
魔族ではないから魔核も無い。なのに再生する体。ユキが言うには体の中を移動する何かがあるらしいが、的確な場所が指摘できないという。そして、恐らくソレを壊さない限り終わりが来ない。
グロテスクな再生に目を眇める仁。
「ジン、無理をするな」
横入りしたネイサンがライラに剣を振るう。腕を動かす度に左腕から血が流れている。早く終わらせないと、せんせーが…仁に焦りが生まれる。そこに。
『…腹だ。ヘソから背骨を一気に突け』
どこから見ているのかサマエルの念話が届いた。
仁は迷うことなく最初の魔族を倒した時のように腰を落とすと、剣を逆手に構えて突進する。
ガツッ
仁の剣がライラの腹に押し込まれ、骨を突き砕く音がした。
ライラは叫び、断末魔を迎えるが そのまま消えた。仁の手には違和感が残る。
『ちっ。あの女…まだ完全に消えていないな。じい様、余程あの玩具が気に入ったんだな』
『…サマエル…ありがとう…』
『消せなくて残念だったな。さて、オレは一度セファに行く。…お前、セファに行った事は?』
『…無いけど…』
『どうせ行くんだろう?飛んでくるなら少しだけ待っててやる』
『待つって…』
『飛ぶ時の目印になるだろう?』
『ありがとう。…でも、あの…』
何で、このヒトはあたしが移動魔法を使える前提で話しているのかしら…?仁が酷く戸惑った表情をしたのを面白げに見ているサマエル。
『魔力の質と量で分かる。オレら魔族でもそうだ。出来る者と出来ない者がいる』
『…そういうモノなの…?』
『そういうモンだ。じゃあな、長くは待たない。来るなら急げよ』
『ありがとう。…あの…こんな事言うのもアレなんだけど…。あまりヒトを殺さないでね…』
『無駄には殺さんが、アメカーヤは全滅させた方が良い。長い事、術にかかっているからな。どの道、死人と同じよ』
『…そう…』
後味が悪いわよね…。仁はライラが居た場所を見て思う。
「ジン…大丈夫か…?」
ライラを倒した後じっと動かない仁を心配したネイサンが声を掛け、ビイナが仁の背中にそっと手を触れた。その温かさにホッとする仁。
「大丈夫です。でも、ごめんなさい。ライラさんを逃がしちゃいました」
「…え…?」
戸惑った表情をしたビイナ。
「…ソケネが何かして、ライラさんを逃がしたみたいです…」
「まさか…」
「ライラさんは…お気に入り、なんでしょうね…」
目を伏せて悲しく笑う仁に、ビイナは「そうか…」とだけ答えた。
仁はネイサンに「せんせー、逃がしちゃってごめんなさい…」と頭を下げてから、その腕を取った。思った以上にひどい。良くこれであんなに動けたわね…と驚く仁。
「いや、ジンのせいじゃない…ソケネの魔法も対処出来たんだろう?一人で良く頑張ったな」
ネイサンに労われて複雑な表情をする仁。頭を振ってネイサンを見る。
今回は一人では無かった。助けてくれたのは敵であるはずの魔族だ。
けど…今更だけど…あたしだけだったら、ソケネの魔法で連れて行かれていたかもしれない…。あの魔法は本当にしつこくて反応も早かった。一つでも対応を間違えていたら危なかったと思う。
何故かはわからないけれど、魔族の…サマエルの気まぐれに感謝だわよ…。
「…ユキちゃん、せんせーの枕になってくれる?」
「はーい」
仁はネイサンを誘うと、優しく介助しながら座らせて横になってもらうのだった。




