仁とソケネ
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「?!」
ネイサンは仁からの念話に思わず声を上げそうになって、ぐっと呑み込む。
仁を見ないようにライラ-ソケネを睨み付けて動揺を隠す。
仁は戸惑った表情のままネイサンとライラーソケネを交互に見る。
ソケネはそれも自分の言葉に因るものだろうと悦に入ったままだ。
その時、後方で大魔法が行われた気配がした。
「…おかしいですねぇ?」
もうとっくに終わっているはずなのに、ヒト共の魔法が使われた?
一足飛びに後方へと向かうライラーソケネ。
それを追うネイサンと仁、ユキ。
『ジン…お前、本当に勘弁してくれ…』
『だって、せんせー。向こうから襲って来たんですよぉ』
『あのねー。ボクも、ままのお手伝いしたのー!』
緊張感の無い主従に疲れ切ったため息を吐くネイサンであった…。
*
その頃、ビイナに指導されながら冒険者たちは大魔法を使い芋虫状態になっていた者たちを正気に戻す事に成功していた。
しかし、ビイナが「まだ縄は解くな」と言うので転がされたままだ。
自分らが何をしたか覚えているらしく大人しく従う者が大多数であり、少数の異議を申し立てる者はまだ術が解けていないのでは…と更に強く拘束された。
「…」
ビイナは嫌な魔力を感じて一帯に防御結界を張り、戦闘態勢に入った。
それに気付いた者たちも剣を抜き、魔法の発動を準備してビイナの指示を待つ。
「…これはこれは…どうした事でしょうね?」
ビイナの真横で、男の声がした。
一瞬で結界を破られ、簡単に懐に入られた事に驚愕の表情を浮かべるビイナ。
冒険者たちは何が起こったのかすら分かっていない。
「失礼?私の配下が、この場所を消し去ったはずなのですが?」
ライラーソケネが不思議そうに、横に立つビイナに問いかける。
あまりの事に驚きはしたが、そこは年の功と言うべきか。ライラーソケネから離れつつ、ビイナは冷静な声で答えた。ジェスチャーで冒険者たちに安全な所に移動するように指示も出した。
「知らんな。そこの芋虫どもの事か?」
「まさか。こんな虫けらに何が出来るのです?」
「…ライラの姿をしているお前は誰なんだ…?」
ライラーソケネは、今初めて気が付いたという様にビイナを見た。
「おや…。確かビイナ嬢、でしたねえ?ライラの記憶では、魔力は強いが協調性に欠ける冷淡なエルフでしたが…ただのエルフではありませんね?」
ライラーソケネは首を振る。その後ろの方にはネイサンと仁が見える。
「この膨大な魔力、知性。素晴らしいではありませんか。嫉妬に狂った女の記憶ほど当てにならないモノはありませんねえ」
「それには同意しかないな」
「…私はソケネ。いちいち移動するのも面倒なので、ライラの体を借りているのですよ」
言い終わると同時に、黒い魔力が ぐああ…と迸った。
恐慌状態に陥る冒険者たち。呑まれなかったのはスタンピードの先陣を切った者だけだった。同じランクを持つ者でも、これだけの差が生じる。
とはいえ先陣の中でも大きな魔力に圧倒され、冷や汗を流して歯の根が合わない者もいるが。
ソケネの魔力が、一帯を焼き尽くさんと閃光をもって穿たれる。
近くにいたビイナが一番に消される所だったが、仁の結界が守った。続いてネイサンがライラーソケネの前に躍り出る。
「面倒な…。魔将たちもどこで遊んでいるのか…。あとはもう、ライラに任せましょうかね…。私も暇ではないのですよ?」
ライラーソケネは仁の顔を見つつ言う。
「セルゼの最後を見届けなくてはいけませんしね?…まあ、あなた様が泣いて懇願するというなら家畜程度に残してあげますよ?」
「絶対にごめんだわ…」
「全てを失った後では遅いのですよ?」
「…あたしが欲しいだけなら、ここまでする必要は無かったわよね…」
「主様を歓迎する為の魂と血の祭典です。派手なほど良いでしょう?さて。お弟子さん?追いかけっこでもしますか?素直に来てくだされば面倒はないのですが?」
仁はライラーソケネを睨みつけた。
「やれやれ…では追いかけっこをしましょうか。ライラは全てを消してから戻ってきなさい。…さて、皆さん?今のライラには理性の欠片もありませんからね?上級魔族程度には強いですよ?楽しんでくださいね?では、失礼」
言うなりライラの体から出ている黒い魔力の一部がヒト程の大きさに固まり、物凄い勢いで仁に向かって来た。仁がそれを避けると回転しながら戻ってくる。逃げれば追ってくる。
「…追尾機能付きってわけね…」
「ジン!大丈夫か?」
ネイサンの声だ。
「あたしはあたしで頑張ります!せんせーとビイナさんはライラさんを倒して下さい!」
ライラはライラで、再びネイサンに襲い掛かっている。ビイナもネイサンに加勢し攻撃している。魔法を用いてこの辺りを破壊してしまえば早いだろうに、ライラはネイサンに固執しているようだ。最もネイサン的にはその方が気が楽ではあるのだが。
仁の結界の中に守られた冒険者たちは、呆けた顔でネイサン、ビイナ、仁を見ている。周りが焼け野原になった事で完全に戦意喪失していた。
「皆さん、結界の中に居てくださいね!出る時は安全を確認してくださいね!」




