仁、ネイサンを追う
一方、ネイサンを追う仁は妙な違和感を感じていた。昨日来た時には感じなかったモノだ。
「ユキちゃん、感じる?」
「…気持ち悪い…」
「そうよねえ…。何かしら、この感じ…」
ザザッ
何者かが仁の行く手を遮った。足止めを喰らい、忌々し気にソレを見る。
目の前に居るのは黒い魔力を持った二本角の鬼のようだった。ヒト型ではあるが、オークのように醜い。ソケネよりもだいぶ弱いが、同じ質の魔力に警戒する。
「…お前が”種”なのか?ふん。ソケネもさっさとやっちまえばいいのになあ」
ニヤニヤ笑いで、何の警戒も無く近づいてくる鬼。その言葉から魔族である事が分かった仁はユキを庇う様に移動した。
「…種って何よ…」
「敬愛なる魔王様の魔核を入れる器よ。お前はそんなに強いようには見えんがなあ。ネイサンって奴の弟子で合ってる?」
「…魔核…」
「いよっし!いっちょオレ様がお手並み拝見いたしましょうかね!」
パンッと手を打ち付けた鬼は、舌なめずりをしそうな顔で攻撃を仕掛けて来た。
既に警戒態勢に入っていた仁は上手く回避するが、獲物を前に興奮した魔族の攻撃は止まらない。
『ユキちゃん、気を付けてね。こいつの魔核を見つけられれば、なんとか…』
『えっとねー、腰の左側に黒いのが見えるよー』
ユキの言葉を受け、ザっと態勢を低く変えて突進する仁。腕を強化し、すれ違いざまに腰を抉る。
「ん、な…?」
仁の手には拳ほどの水晶のような魔核が握られている。鬼はぐしゃりと溶けて崩れ落ちた。魔核を観察した仁はソケネが黒いモノにしか見えないのは魔力の濃度の差なのかしら…?と考えながら再生出来ないように細かく砕く。
「ユキちゃん、魔核の場所が分かるなんて凄いわねえ」
仁に褒められたユキは嬉しそうに跳ね回ると仁に軽く体当たりした。
仁は笑ってユキを撫で、先を急ぐ為に走る。途中で更に二人の魔族に絡まれるが、それも退治してしまう。
仁とユキのコンビ、恐るべし。本人たちが無自覚なのが痛い所ではあるが。
少し開けた場所にネイサンを見つけ、様子を伺う。
王宮で見たライラとは違う気配だが、ネイサンもアロンも居るので間違いないだろう。
「…まま、あのおねーさんも黒くなっちゃった…」
「ええ…そうね…」
アトルの冒険者も、エノクという人も、ライラさんも…なんでなの?
仁はネイサンの心情を慮って辛そうな表情を浮かべる。
「…ネイサン、貴方もこれで終わりね…」
ライラの攻撃は間断無く続いている。
アロン、ハーム、リベッカ、サムも攻撃を仕掛けてはいるのだが、やはり全く相手にされていない。
「どういう意味だ…」
「フウツに来た冒険者たちは、魔族が皆殺しにしている頃よ…。それに、セファはアメカーヤが制圧している…もうじき、セルゼにもアメカーヤと魔族が入り込むわ…」
「…?何でそんな事を話せる…?」
ライラは傀儡のはず。こんな風に話せないはずでは…?
「…せんせー!離れて!その魔力はソケネの…あぁ、ルアフさん!聞こえたらせんせーを守って…!」
何故かルアフの名を呼ぶ仁。無意識に出たので、自分でも驚いた。
仁の声にネイサンは後ろに飛んでライラから距離を取る。
同時にライラは構えを解き、にいっと唇の両端を上げる。
「…おや…あなたがネイサンのお弟子さんですねえ…?」
ライラの口から出た声は、ねっとりといやらしい男の声だった。
「…あなたは、誰?」
仁が聞く。聞く必要もないのだが、時間稼ぎをしたかったのだ。
ネイサンも仁の意図に気付き、そっとアロンたちに近付く。
「…アロン、ハーム。サムたちを連れて避難してくれ…」
「しかし…」
「今ライラを操っているソケネという奴は最後の魔王の腹心だったらしい。危険すぎる」
「ネイサン…」戸惑った顔を見合わせるアロンたちだったが、足手纏いになる可能性の方が高いと判断して 敵を刺激しないようにゆっくりと後退していった。
それを確認しつつ、仁に目を向ける。
「おやおや…。一度、お会いしていますよ?ネイサンを助けにいらしたでしょう?ようやく、ちゃんとお会い出来ましたねえ」
「…知らないわ…」
あたしが見たのは、黒い魔力の固まりだったもの…
ライラーソケネは面白くなさそうな顔で仁を見る。
こうして対峙して、初めてその魔力の深さが分かる。それほどに上手く隠している事は称賛に値するが…正直、大きすぎる魔力は扱いづらい。
主様の器と思えば、これほど素晴らしいモノは無いだろうが…ヒトを庇い抵抗を見せるならば、少し大人しくなってもらわねばならないだろう。
「さて。どうしましょうかね?」
「…おい、ソケネ。さっき言っていたのは事実なのか?」
仁とは反対側に位置を取るネイサンが聞く。
「さっき?はて…」
「フウツに来た冒険者を魔族が皆殺しにしているだの、アメカーヤと魔族が攻め入るだの言っていただろう…」
「そのままの意味ですが?」
ライラの顔でソケネの声と口調にされると苛つきしか感じない。
「主様の為に、ほぼ回復していた四人の上級魔将が急ぎ参上しましてね?とりあえず遊んで体を慣らしてもらおうかと」
「な…」
上級魔将…
若い頃ビイナから教わった、上級魔族とそれ以下を統べる階級の魔族。魔王が倒された時は五人の魔将がいたと聞いた。一人の魔将で、千の上級魔族に値するとも聞いた。
その内の四人が、既に復活しているという。
それでもネイサンは、今のこの状況をどうしたら良いものかと冷静に考えを巡らせていた。
仁が、爆弾発言をするまでは。
『…せんせ…あたし、ここに来るまでに魔族を三人倒しちゃったけど…』




