ビイナ参上
テントに入ったネイサンは、少し悩んだ末にダメ元でペアバッグにメモを入れてみた。ビイナにエノクの事を伝え、ソケネの事を聞きたかった。
メモを入れて、横になる。若い頃のパーティー活動を思い出し、ため息をつく。
五年だ。
依頼を受け、ダンジョンに潜り、馬鹿な事を言い合って…それなりに楽しかったとは思う。でなければ拠点を作る気にはならなかっただろう。
エノクが自分に対しての不満を爆発させ、ライラが鍛錬を怠り力量不足を棚に上げて自分に寄りかかって来るまでは良かったんだがな…。
「真面目にやってる俺の方が悪者扱いされたからなあ…」
日々鍛錬し、知識を身に着ける。あの二人は、高ランク上位になった途端にそれらを放棄した。当たり前の事だろうにな…。家に結界を張られたのも気に食わなかったしな…。それは俺もなんだが、考えようによれば これ以上ない防犯装置だ。不要な訪問も防げたしな。
高ランクパーティーだけに、当時は家に様々なレアアイテムが置いてあったし知らない者の突然の訪問も頻繁にあった。有名税というやつだ。殆ど家にいないネイサンたちの代わりに ネイサンの母が管理人として住み込み対処していたが、本当に面倒だと良く愚痴っていた。エノク目当ての女を追い返す事もしばしばあり、これもエノクにとっては不満だったようだ。
とはいえ、家には居ないし敷地に入れる事も出来ないではどうしようもないと思うのだが。それでも最後まで拠点を出なかったのはなんでだったんだろうな…
取り留めもなく思い返していたが、起き上がってペアバッグを覗いてみた。
さすがに、まだ気が付かないか…と思ったがネイサンのメモは無くなっていて温かい食事と手紙が入れられていた。
「…凄いな…本当に使えるんだな…」
ジンは本当に変な奴だよなあ…。ネイサンは苦笑する。
手紙には「お疲れ様です。ビイナさんの用事が済み次第、そちらに向かいます。
その間にちゃんと腹ごしらえをして下さい。あと、この後はまめに袋を覗いて下さい。向かう前にメモを入れるので、皆さんから少し離れた所に移動してください。移動したら白紙の紙で良いので入れて下さいね」とお手本のような字で書かれていた。
「…何というか…あいつはぶれないな…まあ、ありがたくいただくけどな…」
ネイサンはさっきまでの落ち込んだ気持ちが軽くなるのを感じて、苦笑ではない笑みを浮かべるのだった。
ネイサンは食事を済ませて暫く休憩してから「周りの様子を見てくる。少し時間が掛かるかも知れない」と言い残して奥に入って行った。
気付いた冒険者たちはネイサンがいつものネイサンであると感じて安堵の息を吐く。皆、声には出さないが心配していたのだ。
奥に向かったネイサンは暫く歩き回り周囲の状況を調査、把握しモンスターの気配が無い事を確認した後に更に奥に走って野営地から離れた。少し開けた場所を見つけて、指示された通りに白紙を入れて待つ。
殆ど間を置かずに目の前に二人が現れて驚くネイサン。何故かビイナが仁におぶさっているのが滑稽で噴出してしまう。
「ほらあ…だから抱っこにしときましょうって言ったのに…」
「バカ言うな!教え子に抱っこされるなんざ、ごめんだ!」
よいしょと仁から降りたビイナの頬が少し紅い。手を繋げば大丈夫だと思うと言われたが、怖かっ…不安だったので背中にしがみついたのだ。
あんまりにもいつも通りな二人に、知らず安心してしまうネイサンであった。
ユキが嬉しそうにネイサンの足元に来て体を擦り付けるので撫でてやる。
「…二人共、すまなかったな…」
「お前さんも大変だったな」
「俺は大丈夫だよ」
ネイサンは薄く笑う。ビイナもそれ以上は言わない。仁は二人の関係って良いなあと思って見ている。
「…じゃあ…あたしは暫く向こうに行ってますね。お話が終わったら呼んで下さい」
仁はユキを呼んでビイナに言った。しかしビイナは「ここに居ていい」と仁を同席させた。ネイサンからも「お前にも関係があるから」と言われて地面に座る。
「…エノクだが…ソケネと何らかの契約をしていたようだ。恐らくはアメカーヤの内情の口外禁止辺りだろうが…。話せば死ぬと前置きしてから喋った。
聞き取れた内容は 自分はソケネに飛ばされたという事、ライラを餌にして俺を連れて来いと言われた事、しかしライラは既に死んでソケネの傀儡になっていると。
アメカーヤ自体がソケネの言い成りだという事。それから…俺以上にジン、お前を欲しがっているような気がする」
「…あの時のせいですか…?」
「恐らくな。ライラがそうであるように、何かに使うつもりなんじゃないかと推測出来るしな…。絶対に勝手な行動するなよ」
「はい…」
仁は気味が悪くてブルっと体を震わせた。
「それから…イーチェはやはりソケネの元にいたようだ…。エノクの奴…意外な事に心配していた。わざと追わなかったんだろうか…」
「ふん。最後の最後に役に立ったのか。ばかな奴だな」
ビイナが吐き捨てるように言い、皆が押し黙った。
「…で、師匠。ソケネの情報が欲しいんだが…」
ビイナは地面に胡坐をかいて膝に頬杖を付いている。暫く沈黙が続く。
「以前、わしが言った事を覚えているか?」
「ああ。魔族の生き残りかもしれないと言っていたな」
仁が理解できない…という顔をしたのに気が付き、ビイナは説明しつつ話し始めた。




