二人の結界
「…どうですか?」
「凄いな…。ビイナ殿の結界も素晴らしかったが、これほど美しく完璧な結界は初めて見た…金と緑、二つの結界が重なり合う様はなんともいえんな…」
知らない声に驚いて振り向く仁。集中していて気付かなかったようだ。
「皇帝陛下…」
「おお、睨むな。ビイナ殿が人を連れて物見塔に向かったと聞いてな」
少し困ったような仕草を見せるサイラス。
仁が不思議そうに見ているのに気が付き、近寄る。
「君がネイサンとビイナ殿の弟子なのか?フウツに居るはずの?…一体どうやってここに?」
「…あー。ジン、この方は皇帝陛下だ。陛下、ジンについては全て終わってからにしてもらいたい」
面倒臭そうなビイナにサイラスは顔をしかめて見せたが、口元には薄っすらと笑みを浮かべている。
「皇帝…」
国王にしたように膝を付こうとして、止められる。
「堅苦しいのは公式の場だけにしてくれ」
ビイナを見るが、呆れ顔である。なるほど、そういう人物なのかと納得するジン。
「…わかりました…」
「この結界の強度は?」
「…さあ…スタンピードのワイバーンを纏めて捕まえたのよりは強く作りましたけど…。あら?」
ビイナもサイラスも驚いて仁を凝視していた。
コテンと首を傾げる仁。
「…ジン、お前さん…やらかしてきたな…」
「やらかすって…ひどいですよぉ。ワイバーンの数がいつもより多くて対処しきれないかもしれないって皆さん言っていたから…あたしに出来ると思った事をしただけですよ?」
「…はっ…ははは。さすがは二人の弟子だな。考え方が違う」
サイラスは驚きのあまり笑い出す。
ああ、今日は何て日なんだろうか。大変な事態だというのに、こんなにも笑えるなんて嬉しいじゃないか…!そうか、スタンピード制圧の報告が早かったのはこのジンのせいだったんだな?
笑われて戸惑う仁。ビイナは「うへえ…」という顔でサイラスを見ている。
「…ビイナさん、凄い顔よ?」とコッソリ言うと「こいつはガキの頃から知ってるから問題ない」と返って来たので、これもまた、そんなものかと思う事にした。
「…ああ、そうだ。皇帝陛下、申し訳ないが言い忘れていた事がある」
「ん?改まって何だろうね?」
「ツォル、ミシュマルは国としてアメカーヤに組してセルゼに対し暗闘反目の意志があった。きっちりと制裁を加えてきたんで、後処理は宜しく」
「ちょっと待ってくれ。さらっと何を言っているんだ。なんでさっき言ってくれなかったんだ?」
「…ライラのせいで忘れていた…。申し訳ない…」
本当に忘れていたらしい。サイラスは顔を青くして慌てて戻って行った。
「ジン、この結界はどのくらい持つ?」
ビイナの問いかけに、仁は少し考えた。
「わかりませんけど…あたしが解かない限りあり続けるかも…」
「…全く、お前さんは常識外れだよなあ…。わしの結界は、何もしないままでは一月は持たないだろうな…」
言葉とは裏腹に、実に満足気な顔でジンを見ているビイナ。
仁も「これは褒めているようだ」と安心する。
「…ビイナさん、制裁って何してきたんですか?」
「ふふん。極秘事項だな」
「じゃあ、こんな短期間でどうやって移動したんですか?」
ビイナは軽く小首を曲げて柔らかい笑みを浮かべると、周囲を伺ってから腕を上げた。
『召喚』
霧の様な渦巻きが起こり、そこに姿を現す三メートル程の大きなモンスター。仁が倒したワイバーンに似ているが、どことなく愛嬌がある。
「…これは、わしの召喚獣。近隣諸国なら一日で回れる速さを持っているワイバーンの亜種で名前はオル。可愛いだろう?この子は忘れられた魔術の一つ、召喚魔法で契約しているモンスターなんだ」
「召喚魔法…」
「これはネイサンにも言うなよ。わしの移動方法は誰にも秘密なんだ」
唇に指を当てて、子供の様な笑みをうかべるビイナに戸惑う仁。
「あの…だったらなんで、あたしに…?」
「さてね。気が向いたから、かな」
仁は改めてオルを見る。手を伸ばすと鼻をくっつけて来た。確かに可愛いかも。
ユキは楽しそうにオルの周りを跳ね回って、何か話をしているようにも見える。暫くその様子を楽しんだビイナはオルを帰す。
「…よし。ジン、少し休もうか。家を出てから殆ど休んでなくてなあ…ちょっと疲れた」
言われて「あぁ、そうだった。この人も奔走していたのよね…」と思い出す。
ならば労わなくては。
「…王宮には美味しい物も多いでしょうけれど…あたしの作った朝ご飯でもどうです?」
「いいな。今のわしには、お前さんの飯が一番のご馳走だよ」
「あら…」意外な言葉に面食らう仁であった。




